もやもやレビュー

『月刊予告編妄想かわら版』2022年12月号

『ケイコ 目を澄ませて』(12/16公開)より

毎月下旬頃に、翌月公開の映画を各週一本ずつ選んで、その予告編を見てラストシーンやオチを妄想していく『月刊妄想かわら版』十六回目です。
果たして妄想は当たるのか当たらないのか、それを確かめてもらうのもいいですし、予告編を見て気になったら作品があれば、映画館で観てもらえたらうれしいです。
12月公開の映画からは、この四作品を選びました。

***

『ワイルド・ロード』(12月02日公開)
公式サイト:https://wild-road.jp/
予告編:https://youtu.be/jHy_dCMr3OI

メイン.jpg ラッパーとしても活躍するコルソン・ベイカーが主演する絶体絶命ノンストップアクション映画『ワイルド・ロード』。組織の金を奪って長距離バスに乗り込んだフレディ。女ボスのヴィックからターミナルごとに追手が送られてくる。フレディに協力していた仲間たちも次々に殺され、バスの乗客も怪しく、誰も信じられない彼は父(ケヴィン・ベーコン)に助けを求める。
「なぜこんな無茶を?」「妻と娘への罪滅ぼしだ」「家族に捧ぐ50万ドルってか」「なぜ金額を?」という父と息子のやりとりがあり、父に襲いかかろうとする息子をすぐに膝打ちでやっつける父の姿も予告編で見ることができます。
 ここからは妄想です。フレディは盗んだ金を妻と娘に渡そうとして逃げています。そして、不気味なまでに強すぎる父親の存在はやはり彼も何らかの組織にいたと匂わしているようです。
 もしかすると女ボスのヴィックはフレディは知らないけれど、父親が同じ姉という可能性もありえます。そしてその組織を最初に作ったのは実は父親だった、というオチかもしれません。組織から足を洗っている父が娘(姉)から追われることになった息子(弟)を助けることで罪滅ぼしをしようとする。最後は息子に妻子を大事にしろと言って彼をかばって死んでしまうというラストではないでしょうか?

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『ワイルド・ロード』
12月2日(金)より全国公開
配給:アルバトロス・フィルム
© 2022 INSPIRED CREATIONS FILM, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

『MEN 同じ顔の男たち』(12月09日公開)
公式サイト:https://happinet-phantom.com/men/
予告編:https://youtu.be/WLsQaVPBuuE

【メイン】メイン.jpg 気鋭の配給会社「A24」×『エクス・マキナ』のアレックス・ガーランドによる『MEN 同じ顔の男たち』。夫の死を目撃してしまったハーパー(ジェシー・バックリー)は傷を癒すために知らない田舎町を訪れる。庭に生えていたリンゴをハーパーがかじるが、カントリーハウスの管理人のジェフリー(ロリ―・キニア)に「りんごを食べた? ダメだ。"禁断の果実"だ」と言われるシーンが予告編にあります。
 町で出会う男たち全員がジェフリーと同じ顔であると彼女は気づき、そして森から彼女を追ってくる謎の"男"が現れる物語のようです。
 ここからは妄想です。禁断の果実であるリンゴといえばアダムとイブです。ハーパーがリンゴを食べたことでこの町における新しいイブになったとすれば、「あなた達は一体何なの?」というセリフもあり、同じ顔の男たちはアダムの候補者たちなのかもしれません。
 タイトルに「男たち」とあるように彼らは複数でありながらも、本当はひとつの存在の可能性もあります。アダムたちである彼らはイブであるハーパーをみんなで共有しようとしているかもしれません。「トラウマ級のラスト」という意味を考えると、血まみれの謎の"男"を中心とした同じ顔の男たちと精神が壊れてしまったハーパーが戯れているという救いのないラストかもしれません。

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『MEN 同じ顔の男たち』
12月9日(金)より全国公開
配給:ハピネットファントム・スタジオ
©️2022 MEN FILM RIGHTS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

『ケイコ 目を澄ませて』(12月16日公開)
公式サイト:https://happinet-phantom.com/keiko-movie/
予告編:https://youtu.be/xqH1sTg5w1k

★メイン.jpg 聴覚障害で両耳が聞こえないプロボクサーのケイコを岸井ゆきのが演じ、その姿を三宅唱監督が16mmフィルムに焼き付けた『ケイコ 目を澄ませて』。耳が聞こえないことはハンデにならないんですかと記者に聞かれたジムの会長(三浦友和)は「ケイコは目がいいんですよ」と語る姿があります。
 ケイコは嘘がつけず愛想笑いが苦手だが、日々鍛錬を重ねてプロとしてリングに立ち続けていた。試合後に母親からも「いつまで続けるつもりなの?」と言われ、「一度、お休みしたいです」と手紙を書いて会長に出そうとする。しかし、会長の口からジムが閉鎖されることが告げられる。
 ここからは妄想です。と言ってもこの作品は物語としては最後になにか捻りがあるようなものだとはあまり思えません。この作品において魅力的であり、観るべきなのはケイコを演じる岸井ゆきのさんのはずです。
 予告編の中で会長がケイコについて聞かれて、「人間としての器量があるんですよ」という印象的なシーンがあります。そして16mmフィルムが切り取る光や闇の粒子はケイコの心象風景のように見えます。この作品において私たち観客はケイコの拳やステップの音、なによりも彼女の自身の生命の強さや弱さをスクリーンから感じるはずです。劇場で観るべき一作になっているはずです。僕は絶対劇場で観ます!

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『ケイコ 目を澄ませて』
12月16日(金)よりテアトル新宿ほか全国公開
配給:ハピネットファントム・スタジオ
©2022 「ケイコ 目を澄ませて」製作委員会/COMME DES CINÉMAS

『ジャパニーズスタイル』(12月23日公開)
公式サイト:https://www.japanese-style-movie.com/
予告編:https://youtu.be/2FNA7_3cFLo

 吉村界人と武田梨奈W主演×役者としても活躍中のアベラヒデノブ監督による『ジャパニーズスタイル』。絵描きの男(吉村)の留学中だった妻が大晦日に亡くなる。彼女をモデルにした絵を新年までに完成させないといけないが、その瞳をどうしても描くことができない。
 絵描きの男は妻の瞳にそっくりなリン(武田)と運命的に出逢い、彼女に絵を描くのを協力してもらおうとする。リンには今日中にどうしても終わらせたいことがあり、「一緒に終わらせませんか?」と言われた絵描きの男はその誘いに乗ることになった。
 ここからは妄想です。「ジャパニーズスタイル」というのは英語で袋とじという意味です。二人は旅の中で相手の奥底にあるものに触れることで自分の本当の気持ちや想いから目を逸らすことができなくなってしまい、向き合うことになるはずです。
 リンがある部屋で鍋がちゃぶ台をひっくり返し、絵描きの男が飛び込んでそこにいた男女に謝るのでもなくちゃぶ台返しについて話すシーンがあります。リンはその二人へ自分の怒りをしっかりと見せつけたかったようです。そして、「寂しんだよ」と叫ぶ絵描きの男の姿も予告編にあります。本当の気持ちを曝け出し終わった絵描きの男は「瞳」を描き入れて、彼女とは違う方向へ歩き出して別れる、そんなラストではないでしょうか?

『ジャパニーズスタイル』
2022年12月23日(金)よりユーロスペース シネマ・ロサより全国順次公開
配給:キグー


文/碇本学

1982年生まれ。物書き&Webサイト編集スタッフ。「水道橋博士のメルマ旬報」で「碇のむきだし」、「PLANETS」で「ユートピアの終焉──あだち充と戦後日本の青春」連載中です。

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