もやもやレビュー

『月刊予告編妄想かわら版』2022年5月号

『犬王』(5月28日公開)より

毎月下旬頃に、翌月公開の映画を各週一本ずつ選んで、その予告編を見てラストシーンやオチを妄想していく『月刊妄想かわら版』八回目です。
果たして妄想は当たるのか当たらないのか、それを確かめてもらうのもいいですし、予告編を見て気になったら作品があれば、こんなご時世ですが映画館で観てもらえたらうれしいです。
5月公開の映画からは、この四作品を選びました。

***

『マイ・ニューヨーク・ダイアリー』(5月6日公開)
公式サイト:https://bitters.co.jp/mynydiary/
予告編:https://www.youtube.com/watch?v=Zq-dWCv9OPs

main.jpg 文芸版『プラダを着た悪魔』と評されているフィリップ・ファラルドー監督『マイ・ニューヨーク・ダイアリー』。90年代のニューヨーク、作家志望のジョアンナが老舗出版エージェンシーで働き始める。上司のマーガレットから与えられた仕事は、サリンジャー宛に届いたファンレターを処理することだった。
 ファンレターは本人には届けずに、ジョアンナがお礼の手紙を書いてシュレッダーにかけていく。直接渡してほしいというファンから言われたことと自分がやっている行為に疑問を持っていた彼女が動き出すのが予告編で見ることができます。
 ここからは妄想です。と言いたいところですが、この物語は実話を元にしています。世界中から届くファンレターは情熱で溢れており、作家志望の彼女の気持ちを動かしていきます。また、仕事をしているとサリンジャーから直接かかってきた電話に取って、驚いているジョアンナの姿もあり、「作家になりたいなら毎日書くんだ」と彼はアドバイスをくれた様子も予告編にあります。
 現実と夢の間で悩んでもがいている彼女はサリンジャーへの気持ちがこもったファンレターを読むことで、そしてサリンジャー本人からのアドバイスによって夢を現実に変えていったのでしょう。夢に向かっている人にはぜひ見てほしい作品です。

sub2.jpg『マイ・ニューヨーク・ダイアリー』
5月6日(金)新宿ピカデリー、Bunkamura ル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー
配給:ビターズ・エンド
9232-2437 Québec Inc - Parallel Films (Salinger) Dac © 2020 All rights reserved.

『夜を走る』(5月13日公開)
公式サイト:http://mermaidfilms.co.jp/yoruwohashiru/
予告編:https://www.youtube.com/watch?v=8BNYc9R8fZ4

 『教誨師』を手がけた佐向大監督最新作『夜を走る』。何をやってもうまくいかない秋本とうまく世の中をわたってきた谷口。二人は郊外の巨大な鉄くず工場で働いている。ある日、二人は一緒に飲んだ帰りになにかを目撃してしまったことで、平凡な日常は終わりを告げて、運命が動き出す物語のようです。
「うちに来た日に行方不明になったらしくて、でも俺見ちゃったんだよ」というセリフ、手から手へと受け渡される小さめな拳銃、工場の外にいる刑事たちに向かって歩いていく秋本らしき後ろ姿なども予告編で見ることができます。
 ここからは妄想です。飲みの帰りに二人が見たのは、例えば女性が拉致される瞬間や予告編に出てくる女性たちの誰かと会社の人間が歩いてたというものではないでしょうか。そして、その女性が消える。それをネタに谷口が会社の社長や暴力団の人間をゆすったことで、秋本も共犯とされてしまい、闇の仕事をやらされるようになっていくという展開かもしれません。
 鉄くず工場では巨大な鉄を裁断したり潰したりするところなので、誰かを処分する場所としても実は裏で使用されていた。悪事に加担させられていく秋本は徐々に耐えきれなくなってしまい、最後には自分に命令をした奴らを皆殺しにするそんなラストではないでしょうか?

5月13日(金)公開
配給:マーメイドフィルム、コピアポア・フィルム

『ハケンアニメ!』(5月20日公開)
公式サイト:https://haken-anime.jp/
予告編:https://youtu.be/M1IE0RmI6WI

main1_haken.jpg 直木賞&本屋大賞受賞作家の辻村深月原作作品を実写化した『ハケンアニメ!』。「見てくれた人に魔法をかけられるような作品を作るためです」と語るアニメの新人監督の斎藤瞳(吉岡里帆)、彼女と組む鬼の敏腕プロデューサー(柄本佑)。彼女たちの前に立ちはだかるのは伝説の天才と呼ばれる王子千晴監督(中村倫也)と作品命のプロデューサー(尾野真千子)だった。
「私負けません」「勝利宣言?」「全部勝って覇権を取ります!」とイベント会場で強気に王子監督に宣戦布告する斉藤の姿も予告編で見ることができます。
 ここからは妄想です。「心を開かないとエヴァは動かないぞ」と王子監督が斎藤に告げるシーンが予告編の最後にあります。アニメ制作を舞台にした作品だからこそ、アニメ好きがニヤリとするセリフが出ているようにも思えますが、このエヴァはなにかの隠喩かもしれません。
 斎藤は熟練の制作スタッフたちの個性や性格に翻弄され、しょせん代打かと陰口を叩かれている様子もあります。「エヴァ」≒「アニメ」であれば、監督である斎藤がスタッフの持ち味や性格を熟知して、それぞれをうまく動かす方法を知ることが、実は最高のアニメ作りに繋がっていく伏線にも見えてきます。仕事に悩むすべての人に向けた、働く人への応援歌のような作品になっているはずです!

sub1_haken.jpg『ハケンアニメ!』
5月20日(金)公開
配給:東映
© 2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会
※辻村深月さんの「辻」の字は正しくは二点しんにょうです。

『犬王』(5月28日公開)
公式サイト:https://inuoh-anime.com/
予告編:https://www.youtube.com/watch?v=1aWljU6ZDKU

『犬王』友魚.jpg 古川日出男原作×松本大洋キャラクター原案×大友良英音楽×野木亜紀子脚本×湯浅政明監督によるミュージカルアニメーション映画『犬王』。室町時代に観阿弥と世阿弥親子と人気を二部したと言われる能楽師の犬王と琵琶法師の友魚、二人のポップスターによる狂騒を描いた作品。
「我が名は犬王」と名乗ると空に向かって龍が舞い上がっていく様や、犬王と友魚たちが舞って音を奏でているのに熱狂している民衆の姿だけでなく、将軍足利義満が「では早速舞ってみせろ」と言っている場面も予告編で見ることができます。
 ここからは妄想です。犬王の作ったものは現在では残っていないと言われています。「我らは今ここにあり、我々の物語を消させはせぬ!」という友魚のセリフも予告編にあるので、犬王は歴史から消された存在だったのかもしれません。
 歴史に残らないということは、時の為政者にとって不都合な存在だった可能性があります。「俺が聞いてやる、お前たちの物語を」という犬王の言葉があるように、彼らもまたかつて失われた、消されていった者たちの物語を民衆に広めたのではないでしょうか? 犬王の物語をこの時代に作ったのは、虚実が入り混じって拡散されていってしまう時代へ向けてのひとつの願いのようにも見えてきます。

★『犬王』main 2.jpg5月28日(土)公開
配給:アニプレックス、アスミック・エース
©2021 "INU-OH" Film Partners


文/碇本学

1982年生まれ。物書き&Webサイト編集スタッフ。「水道橋博士のメルマ旬報」で「碇のむきだし」、「PLANETS」で「ユートピアの終焉──あだち充と戦後日本の青春」連載中です。

« 前の記事「もやもやレビュー」記事一覧次の記事 »

BOOKSTAND

BOOK STANDプレミアム