高学歴だけど社会に適応できない...... 精神科医が語る"高学歴発達障害"の実態

高学歴発達障害 エリートたちの転落と再生 (文春新書 1490)
『高学歴発達障害 エリートたちの転落と再生 (文春新書 1490)』
岩波 明
文藝春秋
990円(税込)
商品を購入する
>> Amazon.co.jp
>> HMV&BOOKS

 現在でも重視される場合がある「学歴」。知的レベルや優秀さを示すひとつの基準とはなりますが、だからといって高学歴であれば人生が順風満帆なものになるとは限りません。トップレベルの有名校や一流企業に所属していても、些細なことがきっかけでドロップアウトしてしまう人は数多く存在するものです。

 精神科教授の岩波 明氏は、書籍『高学歴発達障害 エリートたちの転落と再生』において、「最近の10年あまり、これまでとは違うタイプの『コースアウト』する例を、少なからずみかけるようになった」「彼らは学校や会社の『しばり』や『ルール』からはみ出して『離脱』してしまう。実はこのような人たちの背景に発達障害が存在していることが少なからずあると考えている」と記します。

 同書は、これまで高学歴発達障害の人々に接してきた岩波氏が、さまざまな症例を紹介しながら、その現状を浮き彫りにした一冊です。たとえば中高生であれば、受験自体はクリアできても、学校の規則が厳しいことや対人関係をうまく築けないことなどからメンタルダウンし、不登校になることも多いようです。

 高校生までは比較的症状が軽く、特に問題は生じていなかったものの、大学生になってドロップアウトする人もいます。発達障害の中でも特にADHDの特性を持つ人は、元来昼夜のリズムが不安定な面があるため、自由度の高い大学では、サークル活動やアルバイトなどで生活のリズムが乱れ、大学に通えなくなるケースが見られるようです。

 さらに、社会人になってから初めて発達障害の専門外来をおとずれる人も多いといいます。それまではなんとか自己流の対処法で乗り切ってきたものの、仕事の現場ではそれが通用せず、ケアレスミスを連発したり、同じ間違いを繰り返したり、それによって上司や同僚との対人関係が悪くなったりして、本人自ら、または会社に促されて受診することもあるそうです。

 一方で、同書には「再生のポイント」が記されており、投薬治療や家族のサポート、自身の努力などによってどのように回復したかまでがしっかりと提示されています。

 知的レベルが高くてADHDの特性が見られる人の中には、トマス・エジソン、スティーブ・ジョブズ、イーロン・マスクのような起業家や発明家も多いものです。彼らは奇抜なアイデアや途方もない努力で成功を勝ち取りましたが、その人生は激しいアップダウンの繰り返しでもありました。

「この変動の激しさ、ブレの大きさが発達障害、特にADHDを持つ人の人生の特徴であるが、彼らが奈落から復活するパワーを持っていることを忘れてはならないし、見習うべき点でもある」(同書より)

 同書は自身の回復を試みている人はもちろん、その周囲にいる人にとっても、高学歴発達障害について参考になるところが多い一冊だと言えます。

[文・鷺ノ宮やよい]

« 前のページ | 次のページ »

BOOK STANDプレミアム