もやもやレビュー

『月刊予告編妄想かわら版』2022年4月号

毎月下旬頃に、翌月公開の映画を各週一本ずつ選んで、その予告編を見てラストシーンやオチを妄想していく『月刊妄想かわら版』八回目です。
果たして妄想は当たるのか当たらないのか、それを確かめてもらうのもいいですし、予告編を見て気になったら作品があれば、こんなご時世ですが映画館で観てもらえたらうれしいです。
4月公開の映画からは、この四作品を選びました。

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『アネット』(4月1日公開)
公式サイト:https://annette-film.com/
予告編:https://www.youtube.com/watch?v=A4MnPaDCETo

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 『ポンヌフの恋人』で知られるレオス・カラックス監督最新作『アネット』。兄弟バンド・スパークスによる原案のオリジナルストーリーをもとに、ほぼ全編の台詞が歌われるダークファンタジー・ロック・オペラ。
 スタンダップコメディアンのヘンリー(アダム・ドライバー)とオペラ歌手のアン(マリオン・コティヤール)が恋に落ち、やがてふたりに娘のアネットが生まれる。大荒れの海の中、その船の甲板の上で踊る二人、「嵐の中で踊ろう」というヘンリーに「バカはやめて」というアンの姿も予告編で見ることができ、彼の少し異常さも感じられます。
 ここからは妄想です。ヘンリーの職業であるスタンダップコメディアンというのは、皮肉まじりに世相などを切って笑わせる存在です。作品についてダークファンタジーと謳われているので、それまでは皮肉的に世間を切っていたヘンリーの行動や存在自体が笑えなくなっていく、という展開かもしれません。そして、タイトルには娘のアネットの名前がついているので、そんな父を見る娘の視線で展開されていったり、皮肉めいた物語になっていく予感をさせます。
 また、予告編を見ているとアネットは人ではなく人形のようです。ヘンリーからすると娘が人に見えていない、あるいはその逆という皮肉的な物語かもしれません。


main2.jpg4月1日(金)より全国公開
配給:ユーロスペース
© 2020 CG Cinéma International / Théo Films / Tribus P Films International / ARTE France Cinéma / UGC Images / DETAiLFILM / Eurospace / Scope Pictures / Wrong men / Rtbf (Télévisions belge) / Piano

『ハッチング-孵化-』(4月15日公開)
公式サイト:https://gaga.ne.jp/hatching/
予告編:https://youtu.be/TyBfePgDONQ

 北欧フィンランド発の新たなホラー映画『ハッチング-孵化-』。「今日はフィンランドの普通の家庭、私の家族を紹介します」とスマホに語り始める母親。画面には彼女と夫に娘と息子の四人が仲睦まじく映っている。そんな動画の撮影中に娘のティンヤが開けた窓から入ってきた鳥が花瓶などを落として割ってしまう。
 鳥を捕まえた母はタオルで包んでからその首を折って殺してしまう。そして娘に生ごみに捨てるように告げる。その後、ティンヤは森で奇妙な卵を見つけ、自分のベッドで家族には内緒で温め始めることになる。次第に大きく大きくなった卵が割れる。そこから生まれたものとは、というストーリーのようです。
 ここからは妄想です。母親の夢を叶えるために新体操に打ち込むティンヤ、母の期待やプレッシャーのためにいろんなものを我慢している様子も予告編で見ることができます。
 温めた卵から生まれた「存在」はティンヤの母への悪意や憎しみと呼応して家族を襲っていくのでしょう。そう考えると生まれてくるのは楳図かずお著『14歳』のチキン・ジョージ博士のようなビジュアルを持ったある種の鳥と人が融合したモンスターかもしれません。生まれてきた存在と共に家族の返り血を浴びたティンヤが手をにぎしめ、町を抜け出すラストシーンではないでしょうか?

4月15日(金)公開
配給:ギャガ

『カモン カモン』(4月22日公開)
公式サイト:https://happinet-phantom.com/cmoncmon/
予告編:https://www.youtube.com/watch?v=Toy0FjOZ048

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 『20センチュリー・ウーマン』のマイク・ミルズ監督×A24製作による期待の新作『カモン カモン』。NYでラジオジャーナリストをしているジョニー(ホアキン・フェニックス)はある日、妹から9歳の甥っ子のジェシーの面倒を見てほしいと頼まれる。未婚で子供もいないジョニーは慣れない幼い子供との生活を始める。最初は戸惑いながらも、自分に似ているジェシーと心を通わせていく物語のようです。
「いずれ一緒に過ごした日々を思い出せなくなる」「伯父さんはバカの中で一番のバカだよ」という二人のセリフも一緒にいる時間が互いにとって大事なものであることを感じさせます。
 ここからは妄想です。ラストはやはりジョニーとジェシーとの別れのシーンでしょう。伯父は甥っ子との日々の中でかつての自分のことを思い出したり、シングルライフを送ることで他者との関わりが深くなかったからこそ、知らなかった感情や気持ちを知るはずです。
「未来は考えもしないようなことが起きる。だから、先へ進むしかない。カモンカモン」とジェシーがマイクに向かって話しているシーンがあるので、それを後からジョニーが聞いて、新しい一人暮らしの日々を前よりも積極的に生きていくというラストも考えられます。予告編を見るだけでは名作の予感しかないので、劇場で確かめたいです。

サブ1.jpg4月22日(金)より 
TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
配給:ハピネットファントム・スタジオ
© 2021 Be Funny When You Can LLC. All Rights Reserved.

『アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ』(4月23日公開)
公式サイト:https://unluckysex-movie.com/
予告編:https://www.youtube.com/watch?v=0hDiT6N164c

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 第71 回ベルリン国際映画祭金熊賞受賞作ラドゥ・ジューデ監督『アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ 監督〈自己検閲〉版』。名門校の教師であるエミの夫がPCを修理に出した。しかし、PCに記録されていた夫婦のプライベートセックスビデオの動画がネットに流失してしまう。エミが勤める学校の生徒や親たちの目にも触れることになったことで、保護者会のための事情説明に彼女は向かうことになる。
 予告編でも彼女へ卑猥だったり好奇の視線を送る人たちの姿も見ることができます。タブーを打ち破る大論争コメディの幕が上がるようです。
 ここからは妄想です。個人の私生活が外側に漏れた時に起きる恥ずかしさ、あるいは怒りをエミも感じているようです。教師だから問題があるのか? 個人的に楽しんでいるものが他者に知られてしまうと問題になるのか? 個人から社会における性に関する価値観と問題意識を刺激するブラックユーモアのある作品になっているようです。
 タイトルが直接的すぎる気はしますが、エロいのかなと観に行った人が世界や社会について考えてしまう展開が待ち受けているはずです。コロナパンデミックでの撮影もあり、マスクをしている人たちの口元が見えない、そのことはなにが本当で嘘なのか見極めにくい世の中という風刺にもなっているはずです。

サブ1.JPG4月23日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー
配給:JAIHO
Ⓒ 2021 MICROFILM (RO) | PTD (LU) | ENDORFILM (CZ) | K INORAMA (HR)

(文/碇本学)

- Profile -
1982年生まれ。物書き&Webサイト編集スタッフ。「水道橋博士のメルマ旬報」で「碇のむきだし」、「PLANETS」で「ユートピアの終焉──あだち充と戦後日本の青春」連載中です。園子温監督が手がけられた映画『リアル鬼ごっこ』のノベライズ『リアル鬼ごっこJK』、Amazonプライムドラマ『東京ヴァンパイアホテル』エピソード8&9脚本を執筆しています。

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