苗場のマンションは10万円でも売れない!? バブルの負の遺産「リゾート物件」の実態を描いた一冊
- 『バブルリゾートの現在地 区分所有という迷宮 (角川新書)』
- 吉川 祐介
- KADOKAWA
- 1,100円(税込)
- >> Amazon.co.jp
- >> HMV&BOOKS
バブル期にスキーリゾート地として脚光を浴びた新潟県湯沢町。2025年現在、新幹線の停車駅・越後湯沢駅周辺のマンションは、価格は安めながらも正常に流通していますが、約20km離れた苗場プリンスホテル周辺のマンション市場は、絶望的な状況にあるようです。なんと10万円前後という捨て値で売りに出されていても、ほとんどの物件に買い手がつかないといいます。そんな「負債」としか言えないようなリゾート物件の実情について伝えているのが、書籍『バブルリゾートの現在地 区分所有という迷宮』です。
著者は、千葉県北東部の「限界ニュータウン」を長年取材してきた吉川祐介氏。吉川氏によると、苗場のリゾートマンション価格の下落は、「資産性の低下」「住民の高齢化」「所有者の無関心=当事者意識の欠落」「住民コミュニティの衰退」などが根本要因で、これは千葉の限界ニュータウンや、投機目的で乱売された別荘地にも共通するといいます。
ただしリゾートマンションの場合は、マンションを想定した固有の法制度「区分所有法」、かつ共同利用を大前提とした建物構造もあって、解体も売却も容易ではないのが厄介な点です。電気や水道などのインフラはすべて止められ、建物は老朽化が進むばかりなのに、所有者には毎年固定資産税が課され続けているのです。
そもそも、日本の高度成長期に乱売されたマンションは、将来的な解体や建て替えを見据えて造られ、販売されていたのでしょうか。吉川氏は「それは率直に言って疑わしい」(同書より)と疑問を呈します。一般のマンションもそうですが、真に問われるべきは管理状態であるはずなのに、「特にリゾート物件に関しては、後者の『管理』について、あまりに軽んじられてきたものが少なくない」(同書より)といいます。
同書では、解体にこぎつけてマンション跡地が近隣の事業者に売却された幸運な事例も紹介されていますが、一方で、管理費の滞納やデベロッパーの倒産によって放置されたケースがいかに多いかが浮き彫りになります。
まさに「区分所有の迷宮」というサブタイトルがぴったりな、リゾート物件の現状。同書ではマンションだけでなく、区分所有型ホテルや会員制リゾートクラブなどについても、実名を挙げて問題点を詳しくレポートしています。
「『限界ニュータウン』『限界別荘地』なら、まだ見渡す限り広がる空き地の前で、その土地を活用するビジョンを夢想することもできるかもしれないが、腐った廃墟の共有持分ではその余地もない。報われない話だな、と思う」(同書より)
吉川氏のこの言葉には、あらためて問題の複雑さを実感する読者も多いはずです。同書は、日本が抱える社会問題の一つである「負動産」の実態を知るうえで、貴重な一冊といえるでしょう。
[文・鷺ノ宮やよい]