もやもやレビュー

日本人は認知症になりやすい!? 『選ばなかった道』

『選ばなかったみち』 2月25日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開中

近年、認知症という病にクローズアップした映画が増加している。昨年のアカデミー賞主演男優賞を受賞したのも認知症の男性の目線で描かれた『ファーザー』という作品であった。世界中で認知症の患者は増加している。自分の家族がいつか認知症になり介護をしなければいけないかもしれないし、もしかしたら自分自身が認知症を患うことも多いにあり得るのだ。本作は、監督自身が弟の若年性認知症に寄り添った経験をもとに書き下ろした物語だ。

ニューヨークに住むメキシコ人移民レオは作家であった。しかし、認知症を患い、介護を必要とする生活となっていた。その病状は娘モリーやヘルパーとの意思疎通も困難な状況にまで進行していた。ある朝、モリーはレオを病院に連れていくためにアパートを訪れる。モリーが隣にいながらも、レオは、初恋の女性と出会った故郷メキシコ、作家生活に行き詰まり一人旅をしたギリシャへと、彼女とは全く別の景色をみるのだった―。

サブ1.jpg

経済協力開発機構(OECD)に加盟している先進国35カ国の中で、日本は人口における認知症患者の割合が最多であることがわかっている。日本における認知症有病率は2.33%と、OECD全体の平均値である1.48%を大きく上回っている。また、今後もこの認知症有病率は上昇していくと推察されている。
さまざまな理由が考えられるが、孤独感を感じている人は、そうでない人に比べて認知症の発症率が高まる可能性があるとオランダの研究チームが発表している。日本では一人暮らしの高齢者が増加していることが認知症患者が多い原因の一つとして考えられている。そのほかにも、食文化によりアフリカでは認知症患者が少ないという研究結果なども確認されている。

他人事ではないからこそ、私たちは映画を通してさまざまな立場で認知症という病を疑似体験するのかもしれない。
本作では、認知症をわずらった父親と介護する娘が、一緒にいるのに全く違う景色をみている描写が多く、せつない気持ちにさせられた。鑑賞するなかで介護を1人で頑張りすぎるあまり他人に頼ることを忘れてしまったり、他人に頼ることへの罪悪感を感じる家族の姿が描かれるが、そんな選択肢もあるんだと思い出させてくれる作品になっていた。

(文/杉本結)

***
サブ2.jpg

『選ばなかったみち』
2月25日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開中

監督・脚本:サリー・ポッター 
出演:ハビエル・バルデム、エル・ファニング、ローラ・リニー、サルマ・ハエック
配給:ショウゲート

原題:The Roads Not Taken
2020/イギリス・アメリカ/86分
公式サイト:https://cinerack.jp/michi/
©BRITISH BROADCASTING CORPORATION AND THE BRITISH FILM INSTITUTE AND AP (MOLLY) LTD. 2020

« 前の記事「もやもやレビュー」記事一覧次の記事 »

BOOKSTAND

BOOK STANDプレミアム