もやもやレビュー

人生をみつめなおす『アナザーラウンド』

『アナザーラウンド』 9月3日(金)より、新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷シネクイントほか全国公開

今回紹介したい映画は今年度のアカデミー賞で国際長編映画賞を受賞し、監督賞へのノミネートも果たしたことで注目されている作品だ。お酒の飲み方についての作品で、今までお酒によって身を滅ぼす人々の作品は多々あったが、今回は全く別の角度からの視点で面白い。

血中アルコール濃度0.05%に保った状態でいることで生活がプラスの方向に向く。そんな信憑性のない話を自分たち自身で実証すべく、高校教師である仲良し4人組のアラフォーおじさんが高校生のようなノリではじめた実験の物語。最初はうまくいっていなかった家庭が少し良い方向に向いてくる。そこからはどんどんアルコール濃度の制限をなくしてほろ酔い生活へ...。
4人の実験の末路は果たしてどうなるのか?

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この映画を見る時に、デンマークのお酒事情と監督がこの作品にこめた思いを知っていたほうが理解が深まり、ラストのとらえ方も変わってくるだろう。最近まで法律上16歳からお酒が飲めたデンマーク。そのため学校に二日酔いでくる人も珍しくないという話を娘から聞いた監督が、そこから着想を経て本作を撮影しようとしていた時に、奥さんが運転する車が交通事故にあい、その情報を教えてくれた娘が亡くなってしまうという悲しい事故が起こった。この事故により映画の撮影自体を危惧する声もあったが、監督はこの事故があったからこそこのラストにしたのではないかと思うラストになっている。

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本作の主役を演じたマッツ・ミケルセンは監督とのタッグは2度目で、前作『偽りなき者』ではカンヌ国際映画祭で男優賞を受賞している。こちらもあわせておすすめしたい作品だ。マッツ・ミケルセンがどうにも哀愁ただよう少し負のオーラのある役が似合う俳優さんで、本作でもその要素を遺憾なく発揮している。歴史の教師だけど先生という仕事に熱意がなく、生徒からはクレームを言われてしまう教師。元々は研究職につきたかったけれど生活のために一時的な気持ちで始めた先生という仕事を、なんとなく続けていたような感じだ。そんな自分の人生に疑問を感じながら過ごす日々...。自分のやりたいことはなんだろう? この答えがちゃんとみつかり、それを実現出来る人ばかりではないだろう。むしろ、夢は実現出来ずに生活のためにその時できることをして日々過ごしている人の方が多いかもしれない。そんな人生を人生の半分くらいは生きたかなという切り返し地点の時くらいに考えなおしたい! 1度立ち止まってみたい! そんな人におすすめしたい作品。

題名のアナザーラウンドは「もう1杯」という意味。今はなかなか難しいけれどお酒片手に映画をみたくなるような作品だ!
(文/杉本結)

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『アナザーラウンド』
9月3日(金)より、新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷シネクイントほか全国公開

監督:トマス・ヴィンターベア
出演:マッツ・ミケルセン、トマス・ボー・ラーセン、マグナス・ミラン、ラース・ランゼ、マリア・ボネヴィー
配給:クロックワークス

2020年/デンマーク/117分
公式サイト:https://anotherround-movie.com
©2020 Zentropa Entertainments3 ApS, Zentropa Sweden AB, Topkapi Films B.V. & Zentropa Netherlands B.V.

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