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希望の光を見届けて...『朝が来る』

『朝が来る』 10月23日(金)より全国公開

原作者の辻村深月は直木賞受賞作家として有名で本屋大賞のノミネートでも常連。2018年に「かがみの孤城」で本屋大賞を受賞している。本屋大賞受賞作は実写映画化されるケースが多く、今後の活躍からも目が離せない。
2016年に出版された原作を読んだ当時の衝撃と何度も涙しながら読んだ記憶は忘れられない。その作品のメガホンをとってくれたのが大好きな監督のひとり、河瀬直美監督。どのように映像化されるのか期待で胸が高鳴りながらの鑑賞だった。

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前半は子供を望み不妊治療をするも旦那が無精子症と診断される夫婦。そんな夫婦が偶然テレビで特別養子縁組という制度があることを知り、その制度を利用して子供を迎えることにする。後半はドキュメンタリータッチで子供を託すことを決めた母親サイドのストーリーを描く。

物事には表があれば裏がある。後半には子供を産んですぐに預ける決断をする何人かの女性が登場する。望まぬ妊娠、父親不明、若すぎる妊娠...様々な事情を抱えた女性の物語がドキュメンタリーという形で映像化されるとは、こんな表現の方法があったのかと嬉しい驚きだった。この作品ではこの表現方法がベストだったと思えるほどにしっくりきた。

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物事をひとつの側面からみるのではなくて両方の面からみることはとても大切だと思う。
一方の意見だけを聞いてなにかを判断することはとても危険だ。そう感じる事案に出会う機会が歳を重ねるごとに増えてきている。この映画は、両サイドを平等に優しく、強く観客にみせている。その上で「正解がないこともある」という事実がぽんと置かれている。
人の人生に正解はない。振り返って悔いがないように生きるだけ。
親になることに血のつながりよりも大切なものはきっとたくさんある。子供にとっての幸せをいっぱいいっぱい考えてあげよう。
どんなことがあっても親は子供の味方でいてあげたいと背筋が伸びる映画だった。

(文/杉本結)

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『朝が来る』
10月23日(金)より全国公開

監督・脚本・撮影:河瀨直美
原作:辻村深月『朝が来る』(文春文庫)
出演:永作博美 井浦新 蒔田彩珠 浅田美代子 佐藤令旺 田中偉登/中島ひろ子 平原テツ 駒井蓮/利重剛
配給:キノフィルムズ/木下グループ

2020/日本映画/139分
公式サイト:http://asagakuru-movie.jp/
©2020『朝が来る』Film Partners

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