もやもやレビュー

書くべき時間に紡ぐ言葉とは...『小説の神様 君としか描けない物語』

『小説の神様 君としか描けない物語』 10月2日(金)より全国公開中

本作の原作小説の作者である相沢沙呼は2020年に発表した「medium 霊媒探偵翡翠」が「このミステリーがすごい!2020年版」「2020本格ミステリ・ベスト10」の第1位、「2019年ベストミステリー」に選ばれ3冠を達成している。現在、ミステリー界で最も勢いのある作家の一人である。

中学生で作家デビューするも次回作の締め切りに迫られ思うような作品が書けず、ネットでの自分の作品への否定的な言葉に胸を痛める主人公の一也(佐藤大樹)。
そんな一也の前に現われたクラスでも人気者の美少女の詩凪(橋本環奈)。
詩凪は超売れっ子作家だが、ある重大な秘密をもっていた。そんな2人が編集者からの提案で一緒に1つの作品を作ることになる。

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小説が実写映画化される時、小説に書かれた台詞以外の説明的な文章を演者が不自然に説明してしまう場合や、ナレーションがたくさん説明してしまう作品がある。
私はこの現象がいつも不自然に感じてもやもやしてしまう。
だが、本作はそういった説明をばっさりとカットした上で映像としてしか伝えられないあらゆる技法で表現している点がとても素晴らしかった。
まず、冒頭部分から前半のある時点まで作品はモノクロで構成されている。それがこの小説を読んだときに感じたイメージとピッタリとマッチした。
小説に書いてあることを描くのではなく、小説を読んだときに感じたインスピレーションのようなものがここまでしっくりくる形で別の誰かが表現しているのは不思議な感覚だ。

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この映画の監督、久保茂昭さんはEXILE、安室奈美恵を始め多くの有名アーティストのMVをなんと500本以上監督してきているという経歴の持ち主。
一つの学校の文芸部を舞台に文芸部の生徒4人をひとりひとりが主役のように大切にしている。そして、日常の中にある伏線が回収される瞬間がなんとも爽快で気持ちよい!
曲が流れるタイミングも絶妙で気持ちが作品にぐっと近づいた。

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文字は人を勇気づける言葉となり、その人の心の中で大切な言葉として永遠に残ることがある。一方で、傷つけるナイフのような役割にもなる。
感情的になってしまった時、口で発してしまった言葉は取り返しがつかない。けれど、文字を書く、パソコンや携帯で打ち込んだ時は一度冷静になってその言葉を受け取った相手の気持ちを考えてみて欲しい。そして、傷つける言葉があると気づけたのならまだ遅くない!その言葉は迷わず削除すべきである。
インターネットが普及した今だからこそ軽い気持ちで発信したその言葉がどこまでも届く時代になっていることを忘れてはいけない。自分の発する言葉には責任を持とう!そんなメッセージが伝わる作品だった。

(文/杉本結)

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『小説の神様 君としか描けない物語』
10月2日(金)より全国公開中

監督:久保茂昭
原作:相沢沙呼『小説の神様』(講談社タイガ刊)
出演:佐藤大樹、橋本環奈、佐藤流司、杏花、莉子、坂口涼太郎、山本未來、片岡愛之助、和久井映見 ほか
配給:HIGH BROW CINEMA

2020/日本映画/106分
公式サイト:https://shokami.jp
(c)2020映画「小説の神様」製作委員会

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