もやもやレビュー

優しい男が暴力と出会ったら衝撃のラスト『ドッグマン』

8月23日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開

2018年カンヌ国際映画祭主演男優賞、パルム・ドッグ賞を受賞した本作。イタリアのアカデミー賞と言われる、ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞ではなんと最多9部門受賞という快挙をなしとげた。そんな作品が日本にやってくる。

「ドッグマン」という犬のトリミングサロンを営む主人公のマルチェロ(マルチェロ・フォンテ)は愛する娘と会うことを楽しみに海辺の町に暮らしていた。地元の仲間と食事をしたりサッカーをするのが彼のささやかな幸せであった。そんな生活の中で一つだけ気がかりなのがシモーネ(エドアルド・ペッシェ)という暴力的な友人の存在であった。思い通りに物事がいかないとすぐに怒り狂うシモーネに町の仲間たちも困りはてていた。ある日、マルチェロはシモーネに強盗を持ちかけられる。そこから、マルチェロの人生は思いも寄らない方向へ進んでいく。

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主人公マルチェロはシモーネと一緒にいると小さくて弱々しい印象だ。前半の心優しく娘と動物を愛する姿から、後半部分の大切な物を失ってしまった人間の姿は、同一人物とは思えないほどの変化があった。それは外見的な変化ではなく、まとっているオーラのような雰囲気の変化であるから言葉での表現は非常に難しいが、どの俳優にも簡単に出来るようなものではないことだけは確かだ。だから、全くの無名俳優であったにも関わらずこの素晴らしい演技に心奪われカンヌ主演男優賞受賞という流れになったのだろう。

そして、シモーネ役のエドアルド・ペッシェは『神様の思し召し』以来の鑑賞作品となったが、肉体改造しすぎて調べるまで同一人物だと気がつけなかった。
こうして考えると精神的な部分での繊細な役作りをしたマルチェロと外見的な肉体改造に力を入れたエドアルド・ペッシェという2人の俳優が劇中のマルチェロとシモーネを見事に作り出したと言えるだろう。

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この二人の才能を見つけたマッテオ・ガローネという監督は本当にすごい。イタリア映画界を語る上で確実に外すことの出来ない監督の一人でありカンヌに愛される監督の一人である。今後も注目したい監督の一人だ。

誰しも生活の中で悩みや不安、逃げ出したくなるようなことが起きることがあるだろう。そんな時にふと本作を思いだすことになるかもしれない。「私の生きてる世界って狭い檻の中のようだ」檻をぶち破ることを考えてみることも勇気。違う世界が見えてくるかもしれない。

(文/杉本結)

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『ドッグマン』
8月23日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開

監督:マッテオ・ガローネ
出演:マルチェロ・フォンテ、エドアルド・ペッシェ ほか
配給:キノフィルムズ/木下グループ

原題:Dogman
2018年/イタリア/103分
公式サイト:http://dogman-movie.jp
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