もやもやレビュー

極限状態で繋がる想い『シシリアン・ゴースト・ストーリー』

『シシリアン・ゴースト・ストーリー』 12月22日(土)より新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー

実話からストーリーの着想を得て製作された映画は数知れない。実在した人物や事件を扱った作品は、こんなに素晴らしい人がこの世の中にはいたのかと驚かされたり、恐ろしい事件の裏側に息をのんだりと、知らなかった世界をとてもわかりやすく、かつ有名なエピソードをうまくピックアップして教えてくれる。
本作も実際に起きた衝撃的な誘拐事件がベースにあるのだが、他の映画とはひと味もふた味も違う視点や表現で織りなされている。

主人公の少女ルナが想いをよせるジュゼッペはルナの想いを知った直後に突然姿を消してしまう。彼を必死に捜索するルナと、まったく捜そうとしない周囲の温度差は一体なんなのか? どうしてジュゼッペはいなくなってしまったのか?
謎に包まれた失踪と共に描かれる、まだ本当の恋も知らない少年少女のプラトニックな愛の表現が、この作品の素晴らしい世界観を作り出している。

サブ4.jpg

独特なカメラワークに、序盤から「いったい私は今なにを観ているのだろう?」「メルヘンチックな方向へとストーリーは進むのか?」「現実とはほど遠い世界の話が始まるのか?」とたくさんの疑問を抱えながら、とにかくジュゼッペの無事を確認したいという気持ちと共にストーリーが展開していく。

サブ2 (1).jpg

ルナの家の中で起こる母親との会話は妙に生々しく、他人にはみられたくはないけれど多かれ少なかれこういう瞬間って家族ならあるのかなという超現実的なシーンの連続。いつも小言をいう母親とこっそり守ってくれる父親。家から外にでて森や湖のシーンで感じる非現実的な雰囲気とのギャップが寄せては返す波のようにやってくる。そうやっていつの間にか、作品の世界にどっぷりと観客の心を引き込んで離さない。観ている時より見終わった後の余韻がすさまじい。静かな作品なのに伝わる思いはどこまでも大きく心をざわつかせる。こうやって観客の心の中に『ゴースト・ストーリー』としてとりつくのかもしれない。極限状態で繋がる想いを映像にするとこんなにも美しいのかという衝撃を受けたのは初めてだった。

(文/杉本結)

***

サブ1.jpg

『シシリアン・ゴースト・ストーリー』
12月22日(土)より新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー

監督・脚本:ファビオ・グラッサドニア、アントニオ・ピアッツァ
出演:ユリア・イェドリコヴスカ、ガエターノ・フェルナンデス、ヴィンチェンツォ・アマート、サビーネ・ティモテオ ほか
配給:ミモザフィルムズ

原題:Sicilian Ghost Story
2017/イタリア・フランス・スイス合作/123分
公式サイト:http://sicilian-movie.com
(C)2017 INDIGO FILM CRISTALDI PICS MACT PRODUCTIONS JPG FILMS VENTURA FILM.

« 前の記事「もやもやレビュー」記事一覧次の記事 »

BOOKSTAND

BOOK STANDプレミアム