画作りも舞台も恋模様も、ソフィスティケートされないところが美しい。『魚と寝る女』
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この映画の個人的教訓は「短気は損気」。
90分と簡潔な上映時間。湖の入り江にある管理釣り場では、ほぼサイレントの色恋沙汰が繰り広げられる。まさに板の上の鯉の如く、湖面に浮かぶいくつもの釣り小屋では生々しくも、コミカルにも映る展開が雲散していく。ペンキの黄、血の赤、空の青、そして湖沼での情景には特権を握る船外機のボートが無情にもよく似合う。
画作りも舞台も恋模様も、ソフィスティケートされないところが美しい。美しいのだ。
魚だって求めるのは幸せ。でも実際にやってくるのは皺寄せ。
韓国映画特有の直接的な痛みが、自分の中で反応する。
不意にほっぺた殴られたみたいに。
映画の光景は観る人の記憶と勝手に結びつく。
私は写真家で、瞬間の鮮血のようなシーンが脳裏に焼付くことが多い。写真の特権として始まりも終わりもない。
余談になるが、祖父と一緒に船で出た牛久沼の記憶を引き出させられた。朝靄の沼で仕掛けた罠を上げ、魚を持ち帰り真水にさらす。大きな魚はぶつ切りにして煮付け、雑魚は佃煮にする。
でも子供の頃はそういうものをほとんど食べなかった。獲るまでは楽しかったけど、水槽から飛び出して干からびた魚の眼や捌かれた時の血が鮮明で、食材としては生々しく受け付けなかった。大人になって船舶免許を取り、自分で沼に出てみたが、船底をこすってボートを浸水させてしまいそれきり。今では沼に近寄ることもなく、祖父も昨年亡くなった。沼を通した死生観は瑞々しくも少し苦い。あの時、冬の朝靄は吐く息より白かった。
(文/合田千夏)
▼info
個人での初写真集の刊行を目指し、2019年1月4日23:59までクラウドファンディングで支援を募っています。写真に秘めた思いも綴っています。よろしくお願いします。
https://camp-fire.jp/projects/view/99863
▼Profile
合田千夏/1985年生まれ。7年間の音楽活動を経て、2011年より写真家として活動を始める。「塩釜フォトフェスティバル2018」にてニコン賞受賞