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『この世界の片隅に』 後生に残したい!珠玉のアニメーション

 1930年代の戦時中から戦後までを舞台に、広島出身の少女すずさんが呉へ嫁に行き、知らない土地知らない人々の中で生きていく姿を描き出す。戦時中の日本の苦しい生活の中でいかに少ない食料で家族をおなかいっぱいにさせるか当時の様々な工夫が垣間見える。
 アニメーション映画の中に詰まった多くのドラマは、キャラクター一人ひとりがまるで生きているかのようにリアルな生活を送っている。

 主人公すずさんのほのぼのとしたマイペースな性格は、のん(能年玲奈)の声がしっくりくる。
 序盤はすずさんの幼少期のエピソードと共に絵の具で描いたやさしく淡い絵により、独特の世界観に吸い込まれていく。
 そして、周作と結婚してから徐々にお互いを知っていく様子も現代とは違う恋愛模様を見守るような気持ちで胸を高鳴らせる。

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 しかし優しいすずさんの性格とは正反対ともいえる戦時中の現実もヒシヒシと突きつけられることになる。女性は言いたいことも我慢して家族を戦争へと送り出し、弱音を吐かない忍耐強さが印象的。
 それでいて悲しいラストではないのが戦争映画なのに素晴らしい。

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 戦争を知らない人が増えてきた今だからこそ、この作品のもつ意味は大きいのではないだろうか。
 悲しい歴史を悲しいで終わらせない。語り継ぐことの大切さ、現代がどれほどに裕福で恵まれているのか改めて実感し再認識しよう。

 2016年アメリカのオバマ大統領が広島の地へ訪れた。日本の安部首相がパールハーバーを訪問した。これは過去の歴史から考えると歴史的に大きな出来事だ。
 過去は変えられないが未来を築いていくのは私たちであり子孫なのだ。
 この国に起こったことを忘れずに知って欲しいと願わずにはいられない作品がまた一つ増えた。

(文/杉本結)

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『この世界の片隅に』
絶賛公開中!

監督・脚本:片渕須直
声の出演:のん、細谷佳正、尾身美詞、稲葉菜月、牛山茂 ほか
原作:こうの史代『この世界の片隅に』
配給:東京テアトル

2016/日本映画/126分
公式サイト:http://konosekai.jp
(C)こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

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