ジャガイモがある人生、ない人生。『オデッセイ』
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いちご嫌いや、マグロ嫌い、卵嫌いには会ったことがあるのだが、未だかつてジャガイモが嫌いという人に会ったことがない。カレーライスにジャガイモを入れたくないという人がいるが、そんな人でも、揚げたてのポテトフライを目にしたら、食べずにはいられまい。
もしファーストフード店に行くことがあったら、ポテトフライを食べている人をよく観察してみてほしい。人差し指と親指でさっとつまみ、迷うことなく口に運ぶ。友達が同席せずロンリーポテトフライの場合、どこか一点を見つめ、まるで芋の霊にとりつかれたように、ひたすらトレーと口を行き来させている。ポテトフライを口に運ぶという目的のためだけに発明されたAIなのでないか、という錯覚すら覚える。
ヤンソンさんの誘惑、という料理をご存知だろうか。グラタン皿に、薄切りの玉ねぎと、細切りのジャガイモ、ちぎったアンチョビを重ねる。生クリーム、パン粉、バターを散らし、オーブンで30分、カリッと焦げ目が付くまで焼く。ああ、もう字面だけでも美味しい。食べたいな。ヤンソンさんの誘惑...。
この料理はスウェーデン人に愛される家庭料理で、クリスマスにも作る定番メニューだという。ユーモラスな名前の由来は、かつて実在したと言われるベジタリアンのエリク・ヤンソンという宗教家が、あまりにも美味しそうな見た目(焦げ目?)と香りに打ち勝てず、ついに口にしてしまったとされる。(他の説もある)
何が言いたいのかというと、ジャガイモは人を幸せにしたり狂わせたりする、ということである。ズバリ、とんでもない野菜なのだ。そんなジャガイモをテーマにした映画『オデッセイ』を紹介しよう。一人の男が、自らの命を懸けて、火星でジャガイモを育てはじめる。失敗したら、、という軟弱な考えは彼にない。そうするしかない状況なのだ。発芽に歓喜し、収穫に涙する。また今日もまた、ジャガイモが命を救ってくれたと胸をなでおろす。そして、あと何日分のジャガイモがあるかと在庫を数える日々...。
この映画を見終わった後は、間違いなくジャガイモに対する敬意が増すことであろう。ジャガイモがある人生と、ジャガイモがない人生。たとえ芋の霊に取り憑かれてでも、前者を選んでいきたいと思う。
(文/峰典子)