ラブプラスのその先へ『her/世界でひとつの彼女』
『her/世界でひとつの彼女』は6月28日(土)より新宿ピカデリーほかにて全国ロードショー!
そう遠くない未来のロサンゼルスという舞台の完成度。人工知能(AI)に恋するのが、離婚調停中の寂しいおっさんというあるある感。そして、彼が恋するビジュアルなし声だけの存在のAIは、ロボット声と対局にあるスカーレット・ヨハンソンのセクシーなハスキーボイスという恐るべきギャップ・・・。
ロボットと人間の恋。今までも散々描かれてきたテーマだけれど、スパイク・ジョーンズ監督の『her/世界でひとつの彼女』(6月28日公開!)は、すべての要素がとにかく絶妙。素晴らしくお洒落でロマンティックな映画でした。
初めはロボットがヨハンソン声という埋めがたいギャップに正直戸惑ったりもしますが(塩だと思って舐めたら砂糖だった時みたいなあの感覚)、不思議なことにだんだんと彼女の声に深い安心感を覚えてしまいます。ヨハンソンが演じるサマンサは、自らの意思を持ち、一瞬ごとに進化し続ける最新のAI型OS。実態はなく、声だけ。でも人間と同じように、あるいは人間以上に豊かな知性と感情を持っています。深くて温かくてしかもセクシーで、しかもいろんなものを超越してしまってるような、不思議な魅力。彼女の声って、こんなに心地よかったっけ・・・。
で、やっぱり重なるのは、数年前に社会現象にもなった『ラブプラス』です。アニメ声に萌え絵ポリゴンの彼女に入れ込む人たちを、当時はゲームをやってみてすらいまいち理解できませんでした。でもサマンサに恋したおっさんを目の当たりにして、恋に落ちた理由が少しわかったような気がしました。
まず前提として、オタクの嗜好に最適化されていたということ(サマンサもおっさんの嗜好に最適化された状態で起動します)。でもその上でさらに、結婚式までやっちゃう人が出るほど彼らを夢中にさせたのは、寧々さんたちが必ずしも思い通りにはならない存在だったから。しかもただ思い通りにならないだけじゃなくて、時々は思い通りになったりする。だから、ものすごく想像力や思い込み力がある人にとっては、人間同士のコミュニケーションと錯覚できる部分があったんじゃないでしょうか。筆者はそこまでの思い込み力がなかったので実感できませんでしたが、それをもっと高次元に絶妙にやれるサマンサを見て、なるほどとようやく思えました。サマンサレベルまでいけば、誰だって彼女に恋しちゃいます。未来はキケンです! いや、楽しいのか。
ちなみに進化を重ねたサマンサは、実は641股をかけていたとをおっさんに告白し、絶望させます。ラブプラスの寧々さんたちは一体何股かけていたのか、気が遠くなりました。
(文/根本美保子)
『her/世界でひとつの彼女』
6月28日(土)より新宿ピカデリーほかにて全国ロードショー
監督&脚本:スパイク・ジョーンズ
出演:ホアキン・フェニックス、エイミー・アダムス、ルーニー・マーラほか
配給:アスミック・エース
2013/アメリカ/英語/126分
公式サイト:http://her.asmik-ace.co.jp/
Photo courtesy of Warner Bros. Pictures