もやもやレビュー

誰かのファンで良かったと、きっと思える『キサラギ』

キサラギ スタンダード・エディション [DVD]
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だれしも、誰かや何かのファンだと思います。歌手、アイドル、作家・・・、対象はいろいろあれど、共通するのは「無償の愛情」を抱いていることではないでしょうか。本作に登場するのは、ファンの中ファン、もはやプロと言ってもいいファン根性を持った男です。

 1年前に自殺してしまったアイドル・如月ミキの一周忌に、ファンサイトを通じて集まった5人の男たち。最初は慎ましく、穏やかに行われるはずだった会は、「如月ミキは殺されたのではないか」という1人の発言により一変。しかも容疑者はこの5人の中にいるらしい。疑心暗鬼の中で、それぞれが告白していく如月ミキとの関係性。5人の証言が重なり合った時に現れたのは、思いもがけない真相でした。

 詳しい展開はネタバレとなってしまうので伏せますが、真相が明らかになった時に現れるのは、ファンが持つ「無償の愛」の偉大な力です。私自身、好きな歌手がパーソナリティを務める深夜のラジオ番組に、メッセージを送り続けています。憧れの人に自分がしたためた文が読まれた時の、繋がった感覚。そして、「いつもありがとう」という言葉を聴いて感じる、自分がその人の活動を支えているんだという自負。たとえわずかでも、誰かを支える自分の力を信じられる瞬間ではないでしょうか。

「ただ好きというだけ」の気持ちが、いかに憧れの人を支えるエネルギーになっているのか。「あぁ、ファンで良かった」と必ず思える、心温まる作品です。

(文/伊藤匠)

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