役人VS村人の火花の向こうに、己の悪事が見える。『トラブゾン狂騒曲〜小さな村の大きなゴミ騒動〜』
最寄りの駅舎に、小鳥が巣を作っていました。今日はヒナちゃんたち、顔を出しているだろうか? そんなささやかな楽しみが、日々を少し色鮮やかにしてくれます。要するにヒマということです。
さて、8月17日にシアター・イメージフォーラム他で公開予定の『トラブゾン狂騒曲〜小さな村の大きなゴミ騒動〜』を観ました。『愛より強く』『ソウル・キッチン』などのファティ・アキン監督が、父方の祖父母の出身地であるトルコ北東部の小さな村、チャンブルヌで起きたゴミ処理場問題をテーマに撮ったドキュメンタリーです。
黒海沿岸のトラブゾン地域にあるチャンブルヌは、豊かな緑に囲まれた風光明媚なのどかな村。ところが1990年代半ば、黒海周辺で生じるゴミの埋め立て地として白羽の矢が立ち、市長をはじめ村人たちの反対運動もむなしく処理場の建設が進んでしまいます。役人vs官僚。その対決の様子を、処理場建設中の2007年から足かけ5年かけて撮り続けたのがこの映画!
村人による反対運動の様子
ゴミ問題のドキュメンタリー、確かにテーマはガチではありますが、アレクサンダー・ハッケによる音楽が非常にカッコよく、描き方もすごくユーモラス。特に都合のいいことしか言わず現実をごまかす役人と村人とのやりとりは笑いが吹き出すほど秀逸です。しかしそこにある現実は、ゴミの臭気にまみれて普通に暮らすことすら叶わなくなり、処理場建設問題に揺れた十数年で村人が半分にまで減ってしまった恐ろしいもの。そしてバカな役人をあざ笑いながら憤慨しつつも、ふと気付く。実は私たちもその役人と大差ないのではないか?と。
どんどんゴミががさつに捨てられていきます。
いっぱしに食の安全なんかは意識して出元がどこだなんて気にしたりはするけれど、昨日出した燃えるゴミ、土曜日に出した燃えないゴミ、それらがいったいどこでどうなっているのかを、考えたことはありませんでした。流石にこの日本でチャンブルヌのようにゴミの臭気や汚水を垂れ流すような処理場はないのかもしれませんが(それすら知らない)、自分の口に入るモノ、自分の身に直接関わるコト以外には全然関心を払って来なかったことに気付かされ、愕然とします。それは私たちが現在進行形で抱え続けている原発事故問題にも通じることなはずです。役人は矢面で知らん顔をするから目立つだけで、私たちだって見えないところで知らん顔、してたんだって。もしかしたら誰かの犠牲の上で、小鳥の巣を観察するような日々を送っているかも知れないのに。というか、たぶんそうなのに。
正直、観る前は遠い国のゴミ問題? あまり興味がないなぁと思っていました。でもそういう人にこそ観て欲しい。スクリーンに映る役人をあざ笑っている自分こそが、最大級の無関心野郎だったことに気付かされるはずです。
(文/根本美保子)
『トラブゾン狂騒曲〜小さな村の大きなゴミ騒動〜』
8月17日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー
監督:ファティ・アキン
出演:チャンブルヌの村の人々
公式サイト:www.bitters.co.jp/kyousoukyoku