もやもやレビュー

女と靴の恐ろしい関係。『イノセント・ガーデン』

『イノセント・ガーデン』
TOHO シネマズ シャンテ、シネマカリテ他
全国公開中

 『オールド・ボーイ』のパク・チャヌク監督の、英語圏での初監督作となる『イノセント・ガーデン』。美しすぎる映像とイタい暴力描写。脱ぎそうにない可愛い子が脱ぐ。エロすぎるラブシーン(『ピアノ・レッスン』を彷彿させる)。少女に異常に執着するおじさん。ついつい『オールド・ボーイ』と重ね合わせたくなる、オールド・ボーイなパク・チャヌク全開な作品でした。主演はティム・バートンの『アリス・イン・ワンダーランド』でアリス役を演じたミア・ワシコウスカ。その母親役としてニコール・キッドマンも出演しています。(以下、本文は多少のネタバレを含みます)

 森の中の大きなお屋敷に暮らす、お父さん子の少女インディア。ところが18歳の誕生日に父親が突然亡くなり、その葬儀に何年も消息不明だった叔父(父の弟)が突然現れます。そのまま家に居座る好青年風のイケメンだけどどことなくヤバイ雰囲気の叔父(目がすごくギラギラしている)に、母親は惹かれていきます。一方のインディアも初めは警戒しながらも徐々に叔父に惹かれていきます・・・。

 簡単に言えば、サイコパスの気がある少女が大人(=本物のサイコパス)になる(?)過程を描いた、サイコパス成長物語です。でも少女が大人の女性になる微妙な時期って、きっと誰でも狂気や危険なものへの憧れを持ったり、何かしらの危うさを抱えるのではないかと思います。なぜだか。中・高でモテる男子の共通項も、ワルっぽい人ですし。メガネの真面目クンがモテてた記憶は一切ありません。女子のこの心理って何なんでしょうか。で、この作品の場合はさらにサイコパス少女なので、その危うさ濃度はかなり濃いです。初めて目の前で人が殺されるのを見た夜、気が動転して泣いているのかと思いきや、自慰をして恍惚してる!ような子ですから。でもそれでも、きっと女性はインディアとかつての自分とを重ね合わせてしまうと思います。

 そんな少女と大人の境目の危うさにゾクゾクする本作ですが、特に印象的なのが「靴」です。インディアは、誕生日の度に叔父から贈られてくる(彼女は父親かだと思っている)白黒ツートーンのサドルシューズのみをずっと履き続けています。

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映画『イノセント・ガーデン』より
長い黒髪にワンピースで、ユニセックスなサドルシューズを履く姿はちょっと不思議でもあります。そして1年毎に履きつぶしたその靴を、彼女は贈られてきた箱に入れて大事にとっています。彼女の成長に合わせて揃う大小何足ものサドルシューズに囲まれて眠る彼女は、美しくもとても薄気味悪い。そんなインディアの18歳の誕生日に叔父が贈ったのは、ルブタンのヒール靴。叔父がひざまずいて、ぺたんこのサドルシューズを脱がせてヒールに履き替えさせた瞬間の官能と恐ろしさ・・・。そして母親は、彼女のヒールを目にしていろいろと察知しするんです。靴が言葉を超えたいろんなことを物語る、素晴らしく禍々しいシーン。

 劇中に「人は自分を選べない。それに気付いた時に自由になれる」という意味深な台詞があります。ルブタンを履いた彼女は無垢を捨てて大人の女性としての自由を手に入れ、その呪われた血を開花させていきます。女性と靴とのただならぬ関係を思い知らされるのと、どうでもいいけどヒール履くか!という気になります。ヒールを履くことで問答無用に大人の女性としての自分を受け容れたことになる。大人になってもぺたんこ靴しか履かないのは、それに対する恐怖心があるからですし。でも一度履けば、その恐怖心は消えてなくなります。そろそろヒールを履いて自由になろう(もう三十超えてるが!)。そんなことも思わせてくれる作品です。ちなみに予告篇も素敵なのでぜひ観てみてください。
(文/鬱川クリスティーン)

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『イノセント・ガーデン』
TOHO シネマズ シャンテ、シネマカリテ他 全国公開中
監督:パク・チャヌク
脚本:ウェントワース・ミラー
出演:ミア・ワシコウスカ、ニコール・キッドマン、マシュー・グード
2012年/アメリカ映画/99 分/PG12
配給:20世紀フォックス映画
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