杉山すぴ豊が真面目に語る『ひまわりと子犬の7日間』
映画『ひまわりと子犬の7日間』全国公開中
小学生の娘が観たいというので、つきあって観たら涙してしまいました。大げさな泣かせや劇的なシーン、犬好きをキュンとさせるような楽しいサービス・ショットがあるわけでもありません。でも、素直にジーンとくる映画でした。
いわゆる"感動系犬もの"なのですが、ある"ヒーロー"の物語でもあるのです。舞台は宮崎。主人公は、妻を交通事故で失った保健所の職員。小学生の娘と息子がいます。彼は、元動物園の飼育係で、動物好き。だから保健所での彼の仕事は、野良犬や飼い主を失った身寄りの無い犬たちを預かる施設のスタッフです。しかし、その施設では、7日以内に、里親(=新たな飼い主)が見つからなかった場合は、犬たちを殺処分しなければなりません。犬を救おうと思ってこの仕事をしているのに、逆に多くの犬たちを殺さなければならない、その矛盾。そんな彼の前に、"ある問題"をかかえた野犬が現れます。しかも、その野犬は母犬であり、子犬たちを守ろうとしているのです。殺処分の日までに、その犬の母子を助けることが出来るのか?というお話です。
僕は当初、期限までに里親を見つけることが出来るか? というのが物語の軸だと思ったのですが、そうではない。その犬がかかえる"ある問題"を期限までに解決できるか、のお話なのです。ここがドラマ的な深みであります。そして、大事なエピソードとして、娘が父親の仕事の内容を知ってしまう。娘にとって、それは「犬を救う」のではなく、「犬を殺す」仕事にしか見えない。この父娘の溝と、そして再び心を通わせるまでの物語が並走します。
僕が、冒頭なぜ"ヒーロー"の物語と書いたかと言うと、ヒーローというのは、多くの命や幸せを守るために戦っているわけです。でも、必ずしもすべての命を救えるわけではない。むしろ 救えない命の方が多いのもしれない。じゃあ、そのヒーローの行為は、正義は無駄なのか? そんなことはない。一つでも救える命があるのなら、それは、それで意味のあること。そして、そういうヒーローの活躍をみて人々が、自分の中の愛や勇気をよびさますことが出来るのなら、その存在価値はある・・・僕は昨今の、ヒーロー映画に流れるメッセージの本質は、こういうことにあるような気がします。
この映画の主人公も、きっと助けられなかった犬の方が多いのでしょう。でも、彼だからこそ助かり、幸せな人生を送れた犬がいた、ということの方が、大事です。そして、彼の行為がやがて、少しづつ人々の心を動かし、命の期限を前提としない施設への募金・署名活動へとつながっていくのです。
命を守るべき仕事についた者が、実は一番死と向きあわなければならない。
でも、それでも次の命のために毎日立ち上がる・・・その姿にエールを贈りたいです。
(文/杉山すぴ豊)