『フラッシュバックメモリーズ3D』を観て、自由について考えた。
映画『フラッシュバックメモリーズ3D』より
先日、松江哲明監督のコメントもご紹介しました『フラッシュバックメモリーズ3D』を、新宿バルト9の3D上映で観ました! 本当に、すごいのひと言です! 3Dにした理由を、松江監督は「"そこにある"という実態感を表現できるから」と話していましたが、まさにGOMAさんのライブが、劇場の中に実態としてありました。
『フラッシュバックメモリーズ3D』は、アボリジニの伝統楽器「ディジュリドゥ」の世界的奏者として活躍するGOMAさんについてのドキュメンタリー映画。2009年に都内で交通事故に遭い、MTBI(軽度外傷性脳損傷)と診断されたGOMAさんは、過去の記憶の一部が消えてしまったり、新しいことを覚えづらくなるなどの障害を抱えながらも、約1年半のリハビリ期間を経て復帰。映画では、復帰後の2011年にWWWで行われたスタジオライブの映像を中心に、事故前からの過去映像や本人と奥様の自筆の日記、そしてGOMAさん自身が事故後に描いた絵をアニメーション化した映像を、まるでフラッシュバック(突然異なる映像が頭の中に飛び込んでくる症状)のように絡めながら、GOMAさんのディジュリドゥ奏者としての半生を綴っています。
スタジオの様子が3Dで映し出される冒頭、もう完全にスクリーンは現実感を伴ったスタジオと化していました。そしてGOMAさんはじめバンドメンバーのライブ、本当にすぐそこで演奏しているかのようで、3Dの持つ威力をビシビシ感じます。筆者的な3D映画アルアルでいうと、メガネonメガネが辛い→集中できない→映像にまで違和感を感じ始める→2Dでもよかったかと後悔という展開になりがちでしたが(単に不慣れなだけですけど)、まずメガネonメガネであることを完全に忘れてしまいます。ほんとにパワフルなんです。ライブ会場にいるがごとく自然と体が動いてしまいますし、ラストはもう反射的に拍手しそうになります。また、作り手の主観が入らないとても淡々とした作りなだけに、余計にリアルを感じて胸が苦しい。ひとつのライブなんだけど、GOMAさんの頭の中(過去の日記や記録という形で。そしてGOMAさん自身はそのほとんどを忘れてしまっている)が見えるライブというか、これはほんとに特別な体験です。
ディジュリドゥが楽器であることすら忘れてしまっていたGOMAさん。記憶はなくしても体は覚えているという不思議さ。事故後に、一枚も描いたことがなかった絵を突然描き出し、しかもそれがまるでアボリジニの絵のようだったという不思議さ。脳の不思議さを感じるのと同時に、自由って何だろうとも思いました。記憶をなくし、過去に縛られない生き方ができるGOMAさんを見て、単純に羨ましいとも思ったけど、そこには大きな苦しみもある。自由は苦しいことでもあるのかもしれません。縛られる幸せというのもあるのかもしれない。モヤモヤして結論はまだ出ていません。次は『自縄自縛の私』にヒントを探しに行こうと思います。だがそれよりも『フラッシュバックメモリーズ3D』のバルト9の上映が終わってしまう前に、もう一回観に行きたい!
(文/根本美保子)
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『フラッシュバックメモリーズ3D』
新宿バルト9ほかで公開中、全国順次3D上映!
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