北斎の娘が描く、自由に生きる浮世絵師の物語『おーい、応為』

『おーい、応為』 2025年10月17日(金)公開
葛飾北斎といえば浮世絵の巨匠として知られるが、その娘・お栄の人生に焦点を当てた映画『おーい、応為』が製作された。本作では北斎の作品や生涯を知るだけでなく、当時の女性が絵師として生き抜く姿を鮮やかに描いている。主演は長澤まさみ。予備知識なしに観ても北斎とお栄の関係性や、彼女の成長過程を自然に理解できる構成となっている。
お栄はある絵師のもとに嫁ぐが、かっこうばかりの夫の絵を見下したことで離縁となり、父・北斎のもとへ出戻る。父娘にして師弟、描きかけの絵が散乱したボロボロの長屋で始まった二人暮らし。やがてお栄は父譲りの才能を発揮し、北斎から「葛飾応為(おうい)」という名を授かり、一人の浮世絵師として時代を駆け抜けていく。美人画で名を馳せる絵師であり、お栄のよき理解者でもある善次郎との友情、兄弟子・初五郎への淡い恋心、愛犬・さくらとの日常も描かれる。嫁ぎ先を飛び出してから20余年、北斎と応為の父娘は長屋の火事と押し寄せる飢饉をきっかけに、北斎が描き続ける境地"富士"へと向かう。
本作でお栄は男勝りで荒い口調、一人称は「俺」、長い髪も適当にまとめ、服も雑に着こなしタバコばかり吸う。しかし犬のさくらに見せる表情や、「赤いものを身に着けると優しくなる」という言葉を聞いた帰り道に金魚を飼おうとする姿には女性らしい一面が垣間見える。中心となるのは、当時男性が主流だった絵師の世界において、お栄が性別を超えて実力で入り込む姿である。
実際に存在したお栄に関する資料や作品は少ないが、作品内では家の散らかり具合や探し物が見つからない描写から家事は不得意であることが示されていた。2人は生活を共にしつつも、絵を描くことに没頭して他のことには無頓着であった。こうした人間らしい描写が親近感を生んでいたように感じた。
当時の女性としてはパワフルに感じられるお栄の姿は、現代のバイタリティある女性たちにも響くだろう。好きなことを貫き、強くしなやかに生きる姿は、観る者に勇気と背中を押す力を持つ作品である。北斎とお栄の関係性や父を師としてお栄が成長していく描写、そして浮世絵師としての生き様に触れることで、歴史上の人物に対しても深い理解と親近感が湧く構成となっていた。
明日への活力になる作品なのでぜひ劇場でご覧ください。
(文/杉本結)
『おーい、応為』
2025年10月17日(金)公開
監督・脚本:大森立嗣
原作:飯島虚心 『葛飾北斎伝』(岩波文庫刊)、杉浦日向子 『百日紅』(筑摩書房刊)より「木瓜」「野分」
出演:長澤まさみ、髙橋海人、大谷亮平、篠井英介、奥野瑛太、寺島しのぶ、永瀬正敏
配給:東京テアトル、ヨアケ
2025/日本映画/122分
公式サイト:https://oioui.com
予告編:https://youtu.be/CakAEodjpPs?list=TLGGX9s7F2H3JVsxNjEwMjAyNQ
©︎2025「おーい、応為」製作委員会