周防郁雄、田邊昭知、堀 威夫......芸能界を動かしてきた「支配者たち」の証言を収めたノンフィクション
- 『ザ・芸能界 首領たちの告白』
- 田崎 健太
- 講談社
- 1,870円(税込)
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「芸能界」と呼ばれる日本の近代芸能プロダクションシステムの元祖は、第2次世界大戦後、進駐軍のキャンプで演奏していたミュージシャンたちです。その最初の「首領(ドン)」とも呼ぶべき人物が、1955年に渡辺プロダクションを立ち上げた渡邊 晋と美佐だと言われています。その後、彼らの周辺にいた人たちが次々に芸能プロダクションを立ち上げ、「芸能界55年体制」ともいえる盤石な権利ビジネスを構築してきました。
今回紹介する『ザ・芸能界 首領たちの告白』は、日本の芸能界を支配する「首領」に直接取材し、その声をまとめた一冊です。著者の田崎健太氏はプロローグで「彼らと膝を突き合わせると、戦後の進駐軍から始まったザ・芸能界の『栄光と衰退』の本質をのぞき見るような気になった」と記しています。
第1章に登場するのは、バーニングプロダクション創業者にして「芸能界最大の首領」との呼び名を持つ周防郁雄氏です。少し探せばきな臭い記事がいくつも出てくる周防氏ですが、田崎氏は「この手の話が厄介なのは"ドン"の姿が見えないほうが、威光を借りる人間に都合がいい」「本人が認めようと認めまいと、虚像は膨らんでいく」(本書より)と、周防氏の実像のつかめなさについて触れています。
実際に面会した周防氏は、自身の経歴やバーニングプロ設立の経緯、郷ひろみ移籍の真相、サザンオールスターズの音楽出版権を持っている理由などについて、率直に回答。これらを読むと、金銭で関係者を囲い込み音楽出版権などを取得する、所属タレントの醜聞が出そうになると暴力をちらつかせて抑え込む、そうして恩を売り影響力を拡大してきた、というような噂は嘘なのではないかと思わせられます。
しかし、2015年にこのインタビューがおこなわれた直前には、あるグループに日本レコード大賞を獲らせるために所属事務所が周防氏に1億円を支払ったという記事が『週刊文春』に出ているのも事実です。田崎氏は、インタビュー時に周防氏が「ぼくは良い歌が売れないというのが納得できないんですよ」と話したことをあげ、「人間は多面体であり、様々な顔を持つ。この言葉もまた芸能界の首領と呼ばれた男の一面である」(本書より)と、この章を締めくくっています。
他にも、田辺エージェンシー創業者の田辺昭知氏、ホリプロ創業者の堀 威夫氏、レプロエンタテインメントの本間 憲氏、ライジングプロダクション創業者の平 哲夫氏、沖縄アクターズスクール創業者のマキノ正幸氏、ビーイング創業者の長戸大幸氏、吉本興業元会長の大崎 洋氏へのインタビューを収めています。10年近く前のインタビューが多く、中にはすでにこの世にいない人もいますが、普段はほぼ表舞台に出ることがない支配者自らの証言を知ることができる書籍として、日本の芸能史を語る上で貴重な一冊と言えそうです。
[文・鷺ノ宮やよい]