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その"絆"は美しいか、それとも歪んでいるか『九月と七月の姉妹』

『九月と七月の姉妹』 9月5日(金)公開

この作品は、史上最年少でブッカー賞候補となった作家デイジー・ジョンソンによる『九月と七月の姉妹』(原題:Sisters)に着想を得て制作された作品です。

生まれたのはわずか10ヶ月違い、いつも一心同体のセプテンバーとジュライ。我の強い姉と内気な妹は、支配関係にありながらも、お互い以外に誰も必要としないほど強い絆で結ばれている。しかし、学校でのある事件をきっかけに、シングルマザーのシーラと姉妹はアイルランドの海辺近くにある亡き父の家<セトルハウス>へと引っ越すことになる。新しい生活のなかで、次第にセプテンバーとの関係が変化していることに気づきはじめるジュライ。
「セプテンバーは言う──」。
ただの戯れだったはずの命令ゲームは、次第に緊張を増していき、外界と隔絶された家の中には不穏な気配が満ちていく......。

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姉のセプテンバーと妹のジュライ。セプテンバーの強烈なまでの支配欲に、「どうしてこんな関係になってしまったのか」と驚かされた。妹をいじめから守る姿も、自分のためにしているように見える部分がある。何度も停学や退学を繰り返すセプテンバー。しかも、いじめの主犯格が車椅子の少女という点も印象的で、多様性の描き方についても考えさせられた。

作品の冒頭から、不穏な空気は漂っていた。「シャイニング」を思わせる衣装に身を包んだ少女を撮影する母。これから何かが起こる、そんな予感しかしないオープニング。後から調べると、この不気味な音響は『関心領域』でアカデミー賞音響賞を受賞したジョニー・バーンによるものだったと知り、納得した。

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後半、不協和音が加速し、展開は予想の斜め上をいく。
ジュライが抱えているテラリウムの中にいるミミズ。観ている時はただ不気味だったが、後で調べてみると、ミミズは「土を食べて糞をし、土壌を再生する」ことから「再生の象徴」とされているという。まさに作品とリンクした重要な存在で、あの不気味さにも意味があったと気づかされた。

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鑑賞後は余韻にひたる時間が長く、2人のことをしばらく考えていた。
ラストの展開を知ったうえでもう一度見返したくなる、そんな作品だった。原作を未読で観たことで、すべてのシーンにハラハラさせられたし、セプテンバーとジュライと一緒にいるような感覚になるカメラワークの巧みさにも夢中になっていた。
姉妹の絆について、深く考えさせられる作品だった。

(文/杉本結)

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『九月と七月の姉妹』
9月5日(金) 渋谷ホワイトシネクイント、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国ロードショー


監督・脚本:アリアン・ラベド
原作:デイジー・ジョンソン『九月と七月の姉妹』(東京創元社刊/市田泉訳)
出演:ミア・サリア、パスカル・カン、ラキー・タクラー
配給:SUNDAE

原題:September Says
2024/アイルランド、イギリス、ドイツ/100分
公式サイト:https://sundae-films.com/september-says/
予告編:https://youtu.be/h1Qgh8WbJmc?si=dwHB_G3RlwMlNqu0
© Sackville Film and Television Productions Limited / MFP GmbH / CryBaby Limited, British Broadcasting Corporation, ZDF/arte 2024

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