温泉旅館での密室会話劇!『お母さんが一緒』

- 『お母さんが一緒』
- 橋口亮輔,ペヤンヌマキ,江口のりこ,内田慈,古川琴音,青山フォール勝ち

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本作は『恋人たち』『ぐるりのこと』の橋口亮輔監督作品。劇作家のペヤンヌマキが2015年に発表した同名の舞台を、橋口監督が脚色。CSチャンネルで作った連続ドラマを映画化しました。2024年製作。
親孝行のつもりで、母親の誕生日に温泉旅行を計画した三姉妹。長女・弥生(江口のりこ)は美人姉妹といわれる妹たちにコンプレックスを持ち、次女・愛美(内田慈)は優等生の長女と比べられてきたことを恨んでおり、三女・清美(古川琴美)は姉二人を冷めた目で観察している。全員が「母親みたいな人生を送りたくない」という共通の思いを抱えています。温泉宿で繰り出される母親への愚痴は徐々にエスカレートし、お互いを罵倒する修羅場へと発展。そこに三女がサプライズで用意していた恋人・タカヒロ(ネルソンズ・青山フォール勝ち)が現れ、物語は思わぬ方向へ...というお話。
ちょっとネタバレですが、実はこの作品、一緒に温泉宿にいるはずの、三姉妹の愚痴の対象である母親は、最後まで出てきません。でも、彼女たちが語る母への愚痴から、母がいつも文句ばかり言う人という人物像が垣間見えます。
特に長女は、姉妹で一番上だけに母からの影響力をまともに受けています。温泉宿に着いてすぐに部屋を「かび臭い!」「畳から変な臭いがする!」と愚痴ばかり。明らかに母親の特徴であろう点を継承していて、母親が出てこなくともその存在はしっかり感じられます。
また、長女は母の愚痴ばかり言っている割に、実際は母親の言うことをちゃんと聞いてきた人生を送ってきたという矛盾に、人間ってそうだよなと感じざるを得ません。
「何の楽しみもない人生を送ってきたというお母さんのために、自分がお母さんを喜ばせようと、お母さんの言うとおりに色々頑張ってきた」と彼女は言っています。実はお母さんが大好きなんです。それなのに報われないのが、人の不条理なんでしょう。
もちろん次女、三女も、ともに問題を抱えています。姉妹間の激しい攻防戦もあったりと、見所が盛りだくさんです。しかも、温泉宿という密室での会話劇という形も、愚痴合戦への没入感が助長されます。
余談ですが、朝ドラ「あんぱん」で母親役を好演していた江口のりこが長女役をこれまた好演していて、娘役になった彼女が呼ぶ「お母さん」という響きが個人的にはツボでした。
(文/森山梓)

