歌舞伎町で"都市の再野生化"を問う3日間 会田 誠、菊地成孔、伊東豊雄らが集結
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絵画、写真、立体、パフォーマンス、インスタレーション、都市計画まで。現代社会が抱える矛盾に真正面から向き合ってきた現代美術家・会田 誠さん。同氏がかつて歌舞伎町で運営していた伝説的なアートサロン・バー「芸術公民館」が、11月1日(土)から3日(月・祝)にかけて15年ぶりに復活します。
2010年から2012年にかけて、会田さんが主に若手芸術家のために構えたこの極小スペースでは、創作や議論が夜通し繰り広げられ、多くのアーティストたちに影響を与えました。その灯火は有志によって現在もバー「東京砂漠」として受け継がれていますが、「BENTEN 2 Art Night Kabukicho」の開催に合わせて3日間限定で「芸術公民館」の名のもとに復活します。
会田さんは今年6月、作品集『会田誠のスクラップブック』(講談社)を刊行しました。「大きな方向付けのない、バラバラな、未編集のような状態のまま示そう」とまえがきで語った通り、同書は2000年以降の活動を図版750点、自作解説6万5000字、さらにはX(旧Twitter)のツイート880回分という膨大な断片で構成されています。
マスターピースを狙った絵画作品をあえて外し、自身の活動を整理された物語としてではなく、断片的な形式で提示する──この「スクラップブック」という方法論は、会田さんが長年向き合ってきた「都市」という存在への応答とも読み取れます。
本来、都市とは断片的で、雑多で、未整理なもの。さまざまな人々の欲望や営みが重なり合い、予測不可能な化学反応を起こしながら息づいています。ところが近年、再開発の波によって東京の街は次々と「整理」され、均質化されていく。そんな中で、歌舞伎町は今なお「未編集」のエネルギーを保ち続ける稀有な場所といえるかもしれません。
「BENTEN 2 Art Night Kabukicho」は、2024年に初開催され国内外から注目を集めたオールナイトアートイベントの第二弾。今回のテーマは「都市の再野生化」です。Chim↑Pom from Smappa!Groupらのキュレーションにより、王城ビル、歌舞伎町能舞台、デカメロン、WHITEHOUSE、東京砂漠(旧芸術公民館)、THE FOUR-EYEDなど歌舞伎町地区一帯が会場に。15時から翌5時まで(最終日は23時まで)、時間帯によってがらりと表情を変える回遊型のイベントです。
今回復活する「芸術公民館」では、会田さん自身が11月1日(土)18時から23時までバーテンダーとして参加。美術家の岡田裕子さん、映画監督の岡 啓輔さん、キュレーターの布施琳太郎さんとトモトシさんが日替わりで店に立ち、若手からベテランまで「有象無象の美術関係者」とともに夜を過ごせます。
イベントの中心となる王城ビルでは、地下から上階まで多彩なプログラムが展開されます。地下では、宇川直宏さんが2010年に開局したライブストリーミングスタジオ「DOMMUNE」が「DOMMUNE KABUKICHO」SATELLITE STUDIOを開設。昨年の1日だけの開催から今年は3日間に拡大し、VMOとMerzbowの初共演、飴屋法水さんとのコラボレーション、JAZZ DOMUNISTERS=菊地成孔さん×大谷能生さんによるプログラム、新種のImmigrations B×野宮真貴さんなど、音楽ファンは見逃せないラインナップです。
その他、歌舞伎町の各スポットでも、それぞれの空間の特性を活かしたプログラムが用意されています。雑居ビルに突如現れる幽玄な空間がユニークな歌舞伎町能舞台では、美術家・やなぎみわさんによる展示と新作公演を実施。現代美術がこの歴史ある舞台でどう立ち現れるのか、その瞬間に立ち会えます。
建築と都市をテーマにした展示も充実しています。アートスペース・WHITEHOUSEでは、建築コレクティブGROUPによる「生きられた新宿『Parallax City』」を開催。1975年にニューヨーク近代美術館(MoMA)で開催された伝説的な展覧会「Shinjuku: The Phenomenal City」を再考する試みです。11月3日(月・祝)15時から17時には、社会学者・吉見俊哉さんと建築家・伊東豊雄さんによる対談も行われます。都市論の第一人者であるふたりが、新宿・歌舞伎町という場所の過去と未来を語る貴重な機会です。
アートスペースとバーを構えるデカメロンでは、下司悠太さんが「生活パーティー feat.みそ仕込み」を実施。来場者は下司さんと共に味噌仕込みに参加し、自分で仕込んだ味噌を持ち帰ることができます。歌舞伎町のコアスポットTHE FOUR-EYEDでは、ぼく脳さんによる「フォー横闇市場」を開催。概念や体験など従来のマーケットでは見られないものが購入できる、新たな闇市の試みです。
会田さんの『スクラップブック』が示す「未編集の美学」。それは、整理されず、時に混沌としながらも、だからこそ生命力に満ちた都市の可能性を肯定するものとも読み取れます。そんな都市の姿を、この3日間、夜をまるごと使った都市の祝祭で体感してみてはいかがでしょうか。
