銃乱射事件が残した傷『対峙』
- 『対峙』
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俳優から監督に転身したフランク・クランツのデビュー作『対峙』。この作品は、銃乱射事件の加害者家族と被害者遺族が一つの空間で、事件について振り返るワンシチュエーションドラマ。目の前で過酷な会話劇が繰り広げられる興味深い一本です。
舞台はアイダホ州にある、静かな教会の一室。スタッフが「ティッシュはどこに置くべきなのか」「椅子の配置は?」「食べ物はどのくらい用意すればいいのか」など細かい配慮を配り、最終的に4つの椅子が並べられ、日の光が差し込む簡素な空間が用意されました。そこにやってきたのは、6年前に学校で起きた銃乱射事件の被害者と加害者、双方の両親。被害者の両親ジェイ(ジェイソン・アイザック)とゲイル(マーサ・プリンプトン)は、事件で息子を失った悲しみから抜け出せず、この面会が前に進む唯一の方法だと考え、この場に臨むことを決意。一方、加害者の両親リチャード(リード・バーニー)とリンダ(アン・ダウド)も、それに協力しようとこの面会に参加します。リンダは、ジェイとゲイルに花をプレゼントしますが、ゲイルは引き攣った笑顔を見せます。最初は、礼儀正しくお互いを尊重しながら会話が進んでいきますが、次第に息子を失った悲しみと怒りが被害者の両親にこみあげ、「親なら息子の異変に気づけたはず」と責め立てるようになり......。
このようなテーマの作品は、被害者遺族に感情移入しやすいもの。しかし本作では、加害者遺族の葛藤にも焦点を当てています。リチャードとリンダは、自分たちは善良な親であり、愛情を注いで育てていたと信じています。それでも、どこかで重要なサインを見逃したのではないかと追求されるたびに、痛みを伴いながらも子育てを振り返っていく。二組の夫婦に共通しているのは、「過去に囚われずに未来を生きたい」という願いうを持っていること。事件の真相に迫るだけではなく、悲劇をどのように受け入れるのかというテーマで描かれた本作、深い悲しみや、人間の感情の複雑さを凝縮している一本。悲痛が詰まった会話を通して見るのはかなり難しい作品でした。
(文/トキエス)