放浪者から学ぶこと、多し『冬の旅』
- 『冬の旅』
- アニエス・ヴァルダ,アニエス・ヴァルダ,サンドリーヌ・ボネール,マーシャ・メリル,ステファン・フレイス,ヨランド・モロー
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何にも縛られないで生きたいものだ。そうつぶやいてみるのは簡単だが、実際にいろんなしがらみから解放されて生きるのは割と大変だ。仕事、家、モノ、人間関係......それらを手放すとなれば、もう放浪するしかない!まさにすべてを放り投げて放浪しているのが『冬の旅』(1985年)の主人公、モナ(サンドリーヌ・ボネール)である。彼女の過去について多くは語られないが、秘書の仕事がいやになったことだけが伝えられる。そのせいかまわりが働かせようとすると潔くそれを拒み、放つ言葉はズバリ「楽をしたいの」。
ただ、最初のシーンからわかる彼女のあまりにも酷な結末は、凍結して命を落としてしまうというもの。
そうして時を巻き戻し、モナが死に至るまで、道中で出会った人々との交流が淡々と描かれる。放浪者を受け入れる人はきっと心が広いのだろうと思うが、モナをありのままに受け入れようとする人はむしろ少数で、体目当てでしかない人、自分なりの正しさを押し付けようとする人、いざとなったときに彼女を守れない人......となんだか社会の縮図を見ているようで複雑だ。
とはいえ、人間っていやーね、とくくるための話でもない。彼女の死後、交流のあった人々から彼女のことを聞くシーンがたびたび挿入される。そこで少しだけ時間をともにしたモロッコ人の移民は、一言も口にせず、彼女が置いていった赤いマフラーをただただ握りしめていた。
私たちは他者のために、一体なにができるのだろう。どこまでが思いやりで、どこまでがエゴを満たすものなのか。ほかのものを犠牲にしてでも、守り抜けるものはどれだけあるのか。最終的にはそんな問いが残った。
(文/鈴木未来)