傷ついた過去とどう向き合うか----『あの歌を憶えている』
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『あの歌を憶えている』 2月21日(金)より新宿ピカデリー、Bunkamura ル・シネマ 渋谷宮下ほか全国公開
衝撃的な結末で世間を驚かせた『ニューオーダー』などで知られるメキシコ人監督のミシェル・フランコ。彼が監督・脚本・プロデューサーを務めた新作映画『あの歌を憶えている』が、いよいよ日本上陸です。2月21日(金)より公開される本作は、オスカー女優のジェシカ・チャスティンとピーター・サースガードが共演。ピーターは本作で、ベネチア国際映画祭男優賞を受賞しました。数々の映画賞にノミネートされた本作は、過去の傷を抱えた女性が、記憶のない男性と出会い恋に落ちる美しい物語。
10代の娘を育てながらデイケアセンターで働くシングルマザーのシルヴィア。彼女は高校の同窓会パーティー後に、ある男から後をつけられていることに気づきます。その男は翌朝もシルヴィアのアパートの前にいました。彼の名前はソールで、認知症を患ってたのです。これがきっかけとなりシルヴィアはソールのケアを家族から頼まれることに。戸惑いながらもOKしたシルヴィアは次第に彼に心を開いていきます。
同じ高校に通っていたシルヴィアとソール。彼女は、ソールを若い時に友人たちと性的虐待をしてきた相手だと決めつけます。しかしそれが勘違いだと分かったシルヴィアは、彼との距離を不器用にも縮めていきます。そんな奇妙な始まり方をした2人の関係。この映画の面白いポイントは、それぞれのキャラクターのシチュエーションを大々的に説明しているわけではなく、俳優たちの些細な演技で説明してくれるところにあります。これまで力強い役を数多く演じてきたジェシカ・チャスティンが弱々しい姿を見せているのもポイント。彼女は、衣装も自分で調達し、メイクも自分で行うことで、悩みを持つシングルマザーという役柄を完璧にこなしています。
この物語のキーとなるのは、シルヴィアの過去。それは予測不可能なもので、家族と対峙するシーンには心が痛めつけられます。悲惨な過去、記憶とどう向き合っていくのか。それを抱えてどう成長するのか。そんな大切なことを考えさせられた一本でした。
(文/トキエス)
『あの歌を憶えている』
2月21日(金)より新宿ピカデリー、Bunkamura ル・シネマ 渋谷宮下ほか全国公開
監督・脚本:ミシェル・フランコ
出演:ジェシカ・チャステイン、ピーター・サースガード、メリット・ウェヴァー、ブルック・ティンバー、エルシー・フィッシャー、ジェシカ・ハーパーほか
配給:セテラ・インターナショナル
原題:MEMORY
2023/アメリカ・メキシコ/103分
公式サイト:https://www.memory-movie-jp.com
予告編:https://youtu.be/1KoFJuqzlT4