自分が自分と出会い抹殺するまで。 繰り返されるタイムループ『プリデスティネーション』
- 『プリデスティネーション(字幕版)』
- マイケル・スピエリング,ピーター・スピエリッグ,マイケル・スピエリング,ピーター・スピエリッグ,イーサン・ホーク,サラ・スヌーク,ノア・テイラー
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本作をネタバレなしに感想を述べることは難しいので、包み隠さず全開で紹介していきたい。『プリデスティネーション』は、SF小説の巨匠ロバート・A・ハインラインによる短編小説『輪廻の蛇』を原作としたタイムパラドックスもの。力技でなく、複雑な伏線で落とし所をつけているのが面白い。
時は1970年のNY。時間を遡り重大な事件を阻止するという「航時局」の任務に携わるバーテンダー(イーサン・ホーク)。彼はとある任務のために酒場に立っている。そこに客としてやってくるのが若い男ジョン。ジョンは自身の回想録を雑誌に連載する作家なのだが、その記事をバーテンダーは読んだことがあるといい、彼を誉める。なぜ女の視点を描けるのか訳を教えてくれと乞うと、ジョンは信じやしないといいながらも、酒を賭けることを条件に語り始める。「私が少女の頃......」
身の上話を聞き終えたのち、バーテンダーも自らが時空警察であることを告白。元恋人への復讐を望むジョンの手助けをすると言い出す。ジョンの装いは男のそれでありながらも、演じているのがサラ・スヌークなので、冒頭でカラクリに気付く人は多いだろうし、むしろ分かるようにつくっているのかもしれない。いつしか私たちはバーテンダーとジョンが同一人物であることを知るのである。
繰り返されるタイムループの中で、自分が自分を産み出し、やがて自分を抹殺する。最大の謎は「主人公の人生のはじまりは一体いつなのか」ということ。いわゆる「鶏が先か、卵が先か」問題なのだが、これは原作を読んでみたあとに、再度考えてみたいと思った。
アクションはほぼ皆無。どことなく『ベンジャミン・バトン」のような、会話劇が中心のSF作品であることも印象深い。美味しい紅茶を飲み終えたような、身体に染み渡っていくような感覚を味わった。
(文/峰典子)