もやもやレビュー

友情を見つめなおすアニメーション映画『ロボット・ドリームズ』

『ロボット・ドリームズ』 11月8日(金) 新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー

第96回米国アカデミー賞長編アニメーション映画賞ノミネートの快挙を成し遂げた『ロボット・ドリームズ』。受賞したのは宮崎駿監督の『君たちはどう生きるか』だった。だが、こちらの作品も獲る可能性があるのではないかと予想する人も多かった。

監督、脚本、制作を務めたのは、パブロ・ベルヘル監督。2012年の『ブランカニエベス』はスペインのアカデミー賞と称されるゴヤ賞で作品賞を含む 10部門を受賞し、50部門を超える世界各国の主要な映画賞を獲得。アカデミー賞外国語映画賞のスペイン代表作品にも選出された。2017年には『アブラカタブラ』を監督し、再びアカデミー賞外国語映画賞のスペイン代表作品に選ばれ、ゴヤ賞8部門にノミネートされた。

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まさか、アニメーション映画を作るとは思いもしなくて驚いた。けれど、作品はアニメーションだけど、そこに描かれているものは感情の動かされる素晴らしいドラマだった。本作、登場するのは動物とロボットだけ。台詞もない。だけど、なにが起こっているか観ているこちらにはしっかりと伝わってくる。そして、心揺さぶられ102分の間に主人公のドッグとロボットによって自分の中にある喜怒哀楽全ての感情と出逢うこととなる。

大都会ニューヨーク。ひとりぼっちのドッグは、孤独感に押しつぶされそうになっていた。そんな物憂げな夜、ドッグはふと目にしたテレビCMに心を動かされる。数日後、ドッグの元に届けられた大きな箱――それは友達ロボットだった。
セントラルパーク、エンパイアステートビル、クイーンズボロ橋......ニューヨークの名所を巡りながら、深い友情を育んでいくドッグとロボット。ふたりの世界はリズミカルに色づき、輝きを増していく。しかし、夏の終わり、海水浴を楽しんだ帰りにロボットが錆びて動けなくなり、ビーチも翌夏まで閉鎖されてしまう。離れ離れになったドッグとロボットは、再会を心待ちにしながら、それぞれの時を過ごす。やがてまた巡りくる夏。ふたりを待ち受ける結末とは――。

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台詞がない分、スクリーンの中で起こる些細な出来事にまで細かく目がいき、音楽やNYの景色までしっかりと楽しめた。
登場するのはドッグとロボットだけれど全てが人間に当てはまるように思えた。なにをするにしても1人きりでいるより隣に誰かがいることでうまれる感情が確かにあることが再確認できた。

ドッグとロボットの、1年間の会えない時間の中で起こる変化の描き方がとても素晴らしかった。それは四季であらわされていくのだが、景色だけではなくお互いの心の変化も時間の流れのなかで起こる新たな出会いと共に描かれていた。

友情物語だが、どこか恋愛映画をみたかのような気分で鑑賞後に立ち上がった。そして、劇場で流れるメインテーマの「セプテンバー」を聴きながら帰路についた。ただのアニメーション映画ではないのでハンカチの準備も忘れずにご鑑賞することをおすすめしたい作品だ。

(文/杉本結)

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『ロボット・ドリームズ』
11月8日(金) 新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー

監督・脚本:パブロ・ベルヘル
原作:サラ・バロン
配給:クロックワークス

2023/スペイン・フランス/102分
公式サイト:https://klockworx-v.com/robotdreams/
予告編:https://youtu.be/1orCzDRVFdg?si=gXLhbK3nUaX82iiy
© 2023 Arcadia Motion Pictures S.L., Lokiz Films A.I.E., Noodles Production SARL, Les Films du Worso SARL

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