もやもやレビュー

誰かの役に立つということ『北京的西瓜』

北京的西瓜
『北京的西瓜』
大林 宣彦,石松 愛弘,ベンガル,もたい まさこ,峰岸 徹,林 泰文
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人生をともにするなら、やっぱり思いやりに厚い人がいい。欲を言えば、周りにもやさしくできる人がいいワなんて思う人もいるかもしれない。そうやって選んだ人が、たまたま出会った人を助けるために家族も仕事も犠牲にしたとしたら、あれ、ちょっとそれはやりすぎなんじゃ......と困惑と不安に襲われるかもしれない。

大林宣彦監督の『北京的西瓜(ぺきんのすいか)』にはそんな男性(べんがる)が出てくる。職業、八百屋。自営業。たまたま八百屋に寄った中国人の留学生があまりにもひもじい思いをしながら日本で勉強していると知り、なんだかいても立ってもいられなくなり、あれもこれもと手伝い出す。来日する妻を空港まで迎えに行くお金がない......といわれれば、八百屋のトラックを出して空港まで迎えにいく。寮がいっぱいで住むところがないと言われれば、いっしょに家探しをし、家賃まで払う。何かあればすぐに駆けつけるので、寮で暮らす中国人留学生全員にいつしか「お父さん」と呼ばれている。こっちの側面だけ見ると頭が上がらないわけだが、お父さんは中国人留学生たちを助けるために、店のお金を使ったり家族のものを勝手に売り飛ばしたりもしている。そのうえお店はほぼ放棄。それでも生きていかないと、と身も心も削り、店や子ども二人の面倒を見る妻(もたいまさこ)の姿を見ると、複雑な気持ちになる。

ただ、お店でちょっとやりとりをした人が、ひもじい思いをして栄養失調にまでなっていると知ったところで、生活費を削って助けようとする人がどれだけいるだろうか。そう思うと、「お父さん」はやっぱり立派なのかもしれない(ちなみにこの話は実話に基づいている)。でも、周りの理解を得るのがなかなかむずかしい。彼らを支える余裕や熱量は、誰もが持っているものではないからだろう。「お父さん」のパートナーだとしたら、どう歩み寄るだろうか。妻の涙ぐむ答えは、映画のなかにある。

(文/鈴木未来)

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