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幽霊と親しくするのは、危険!『異人たちとの夏』

異人たちとの夏
『異人たちとの夏』
風間杜夫,秋吉久美子,片岡鶴太郎,名取裕子,大林宣彦,市川森一
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大切なひとが帰らぬひととなったら、もう一度だけでいいから会いたい、と思うのはごく自然なことである。でもいざ彼らがひょっこり現れたらどうするか。そんな問いから出発するのが、大林宣彦監督の『異人たちとの夏』(1988年)である。山田太一さんが原作を手がけた。

主人公はシナリオライターの原田英雄(風間杜夫)。ある夜、浅草の寄席に行ったら、幼いときに交通事故で亡くしたはずの父(片岡鶴太郎)が客席にいるのを発見し、びっくり仰天。父は当たり前のように英雄に声をかけ、家に誘う。てくてくついていくと、父とともに命を落とした母親も当時の年齢のまま、家にいた。ワケがわからないが、再会できたうれしさのあまりふたりの家に足繁く通うようになると、英雄の顔にどんどん異変が......。さらにこの話は、両親と再会する少し前に、同じマンションに住む女性にいきなり家に押しかけられ、その流れで少しずつ恋愛関係に発展する、というサイドストーリー付き。だが、この女も胸にある傷をなんとしてでも隠そうとするあたりが、妙に怪しい。関係を築いている相手は皆奇妙だが、英雄はしあわせそうで、これまでになく愉快そうだ。でもそんなしあわせは長くは続かない。なんていったって、幽霊と親しくするのは危険なのだから......。

ちなみに2024年春に、本作のアメリカ版が『異人たち』という邦題で公開される。主演はアンドリュー・スコットと『アフターサン』での演技が記憶に新しいポール・メスカル。原作に忠実なのは大林監督のほうらしいが、おかしみを減らし、静かで美しい作品にリメイクしたアンドリュー・ヘイ監督版の『異人たち』も楽しみにしたい。

(文/鈴木未来)

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