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【無観客! 誰も観ない映画祭 第32回】ロジャー・コーマン追悼企画その1 『金星怪獣の襲撃 新・原始惑星への旅』

金星怪獣の襲撃 新・原始惑星への旅 [DVD]
『金星怪獣の襲撃 新・原始惑星への旅 [DVD]』
マミー・ヴァン・ドーレン,メアリー・マー,ペイジ・リー,アルド・ロマーニ,マーゴット・ハートマン,ピーター・ボグダノヴィッチ(ナレーション),デレク・トーマス
有限会社フォワード
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〜追悼 「B級映画の帝王」ロジャー・コーマン〜
今年5月9日、「B級映画の帝王」「低予算映画の巨匠」といった異名を恣(ほしいまま)にしたハリウッドの名プロデューサー、ロジャー・コーマンが死去しました(享年98歳)。『アッシャー家の惨劇』(60年)などのエドガー・アラン・ポー原作作品を数多く手掛け、無名時代のジャック・ニコルソンが出演していた『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』(60年)、デヴィッド・キャラダイン主演でブレイク直前のシルベスター・スタローンも出ていた『デス・レース2000年』(75年)など、SF・ホラー・アクションを中心に300本を超える作品をプロデュース、うち50本を自ら監督しました。彼に見い出された、というより安い賃金でコキ使われた(笑)若手スタッフ・俳優の中には、ジェームズ・キャメロン、マーティン・スコセッシ、フランシス・フォード・コッポラ、スティーヴン・スピルバーグ、ジャック・ニコルソン、ピーター・フォンダ、ロバート・デニーロなど錚々たる顔ぶれが牙を磨いていたのです。このコラムではその偉大な業績に敬意を表し、数回に渡って作品を紹介していこうと思います。

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『金星怪獣の襲撃 新・原始惑星への旅』
1968年・米ソ・80分
監督/デレク・トーマス(ピーター・ボグダノヴィッチ)
脚本/ヘンリー・ネイ
出演/マミー・ヴァン・ドーレン、メアリー・マー、ペイジ・リー、アルド・マローニ、マーゴット・ハーマンほか
原題『VOYAGE TO THE PLANET OF THE PREHISTORIC WOMEN』

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 ロジャー・コーマンは大ヒットした邦画を買い付けてはアメリカで配給していたのですが、その多くはオリジナルを捻じ曲げられて公開されました。例えば『風の谷のナウシカ』は、日本側に許可なくキャラクター名を変え内容もズタズタに編集され、それを後年になって知らされた宮崎駿は激怒したといいます。また『日本沈没』は、アメリカが日本人移民の受け入れを世界各国に頼み込む「アメリカ礼賛映画」に作り変えられたそうです。なんでも彼の自伝『私はいかにハリウッドで100本以上の映画をつくり、10セントも損をしなかったか』によると、「とてもそのままでは上映できる代物ではなかった」からだそうですが、さすがの傲慢ぶりですね。逆に観たい気もしますが。

 そんなロジャー・コーマンに目を着けられてしまった不運な作品に、旧ソ連の名作SF『火を噴く惑星』(62年・ソ連)があります。1950年代からお堅いドキュメンタリー映画を手掛けてきたパーヴェル・クルシャンツェフ監督ですが、ここでは当時のハリウッドと遜色ない特撮技術を駆使し、娯楽性の高い奇想天外な金星探検映画を作り上げました。時代背景としては米ソ冷戦下の宇宙開発競争時代、ソビエトは世界初の人工衛星スプートニク1号の打ち上げに成功し、アメリカに対して優位に立っていました。その最たるものが、金星ロケットに同乗するアメリカ人科学者が作ったコンピューター内蔵ロボットのジョン。そこをライバルのアメリカに譲ったソビエトの余裕が感じられます。

 物語は、1990年代にソビエトの宇宙ロケットが人類初の金星着陸に成功し、探査を始めると数々の怪生物に遭遇します。ブロントサウルス風の怪獣、鼻先に1本の角があり長い尻尾が生えた身長2メートルほどのケラトサウルス風怪物。蔦で隊員を絡め捕る巨大食人花。そして、まるでセイレーンやローレライ伝説のような、海辺に響き渡る女性ソプラノのハーモニーが謎を呼びます。

 さて、岩場の多い地表で利便性を発揮するホバークラフトですが、海上で翼竜ランフォリンクス風の怪獣に襲われ沈没してしまいます。だがこのホバークラフトは潜水機能も備えていて、海底に沈んでいる翼竜の石像を発見し、かつて金星には翼竜を神と崇めた文明があったことを知ります。

 そしてロボットのジョンは八面六臂の活躍をするのですが、恐怖の側面も見せます。火山が噴火し、溶岩流が迫りピンチに陥っていた博士と怪我人の2名は、ジョンに命じて肩に担がせます。ガシャンガシャンと安全な場所を目指すジョンの足元に、やがて溶岩流が到達します。するとジョンは「温度500度。重量ヲ減ラサナイト動ケナクナリマス」と言ったかと思うと、躊躇なく怪我人を掴み上げ溶岩流に投げ捨てようとします(汗)。慌てて博士が電源をオフにし、そこへホバークラフトが間に合い2人を救出しました。取り残されたジョンは最期に生みの親である博士の名を呼び、溶岩流の中へと倒れ込むのでした(泣)。

 ラストに若者が石コロに彫られた美女の顔のレリーフを発見し、金星人の存在を確信します。だが強烈な嵐と火山の噴火(『火を噴く惑星』だけに)に調査を断念、後ろ髪を引かれながら金星を脱出するのでした。直後、海岸の潮溜りに女性らしき姿が映ったところでジ・エンド。

 さて、この作品を気に入ったロジャー・コーマンは、1965年に門下生カーティス・ハリントン(『キラー・ビーズ』(74年)など)を抜擢し、アメリカ人俳優のシーンを付け足して『VOYAGE TO THE PREHISTORIC PLANET』という米題で公開しました(日本版DVDタイトル『原始惑星への旅』)。そして3年後、コーマンはそれをテレビ用映画に編集した『VOYAGE TO THE PLANET OF THE PREHISTORIC WOMEN』を制作します。これが今回取り上げる『金星怪獣の襲撃 新・原始惑星への旅』です。追加撮影をやらされたデレク・トーマス監督とは、後に名子役テータム・オニールの出世作『ペーパー・ムーン』(73年)を撮るアカデミー賞ノミネートの常連ピーター・ボグダノヴィッチでした。

 問題のシーンは物語の後半にやってきます。カメラが海岸を映し出すと......おやおや、貝殻で乳房を隠したヘソ出しルックのブロンド美女たちが7、8人で岩の上に寝そべっているではありませんか。人魚? と思いきや脚が2本ありヒラヒラのロングパンツを穿いています。やがて1人が目覚め「妹たち、起きなさい。お腹が空いたわ」とテレパシー交信で全員を起こし、海に入って魚を生きたまま食べます。そこへ例の翼竜が出現すると、彼女らは「私たちの神、テラ!」と崇めます。そこで貝殻ブラが一枚、ヒラヒラと海の底へ没していくのですが、それが何を意味するのか筆者には理解できませんでした。

 こうなると話は違ってきます。隊員たちがホバークラフトに搭載された武器で翼竜を撃ち殺すと、長女は彼らを「悪魔」と呼んで報復を宣誓。全員で「ファイア、ファイア、ファイア」と唱えと、火山が噴火して溶岩が流れ出します。彼女らはマグマを自由自在に操れるのです。ここが先述したジョンが溶岩流に吞み込まれるシーンへと繋がるのです。

 翌朝、長女は透視能力で帰還の用意をしている隊員たちに気付きます。「まだ侵略者は生きてる。火の山の神より強いなんて......」。昨日の溶岩攻撃で地球人を倒したと思い込んでいた女たちは、今度は天候を操ります。空はゴロゴロと荒れ出し豪雨と暴風が発生し、山からは鉄砲水、大地は割れます。ふと若者が手に取った女の顔のレリーフを見て「我々と同じ人類がいるんだ! 残るべきだ!」と大喜びします。そんな彼を仲間は「わかった、わかった」とロケットに引きずり込み発進。去っていくロケットを長女が見上げながら「守護神テラは負けたのよ。テラは偽物の神だわ!」と石を像に投げつけます。すると妹たちも追随して投石し、テラ神の首がもげて岩場に転げ落ちます。ここで女たちは「もっと偉大な神がいる」と、波打ち際で真っ黒焦げになって転がっているジョンの残骸をヨイショヨイショと運び、今まで翼竜があった神座に据えるのでした。......何だ、こいつら?

 前作ではラストにチラッとだけ水面に女を映すに留めましたが、ロジャー・コーマンには物足りなかったのでしょう。金星の英名はヴィーナスだけに、「どうせなら」と女神の出血大サービスを敢行したのです。これを評論家や映画ファンは「改悪」と捉えていますが、なかなかどうして筆者は好きです、こういうの。

【著者紹介】
シーサーペン太(しーさー・ぺんた)
酒の席で話題に上げても、誰も観ていないので全く盛り上がらないSF&ホラー映画ばかりを死ぬまで見続ける、廃版VHSビデオ・DVDコレクター。「一寸の駄作にも五分の魂」が口癖。

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