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感染症にマスク姿で立ち向かう『サントVS吸血鬼女』

サント VS 吸血鬼女(字幕版)
『サント VS 吸血鬼女(字幕版)』
サント,ロレーナ・ベラスケス,マリア・デュバル,ハイメ・フェルナンデス,アウグスト・ベネディコ,グザビエ・ロイヤ,アルフォンソ・コロナ・ブレイク,アルベルト・ロペス,アントニオ・オレリャーナ,フェルナンド・オゼス,ラファエル・ガルシア・トラベシ
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 ゴールデンウィークが終わる頃、今さらながら新型コロナに感染してしまった。2020年初頭に日本に上陸して以降、外出時にはマスク着用、ワクチンも接種券が届くたびにきちんと対処、そのおかげかこれまで全く感染せずにいたのだが、昨年5月から5類に移行したためかワクチン接種券が届かなくなり、昨年10月に接種したのを最後にうっかり忘れていたらこの始末である。もちろん今回の感染がワクチンの効力切れによるものとは言い切れないのだが、自分の今までの状況からそう思えてしまうのは仕方のないことである。

 症状としては、咳やふらつきなどに加え、体温が最高で39.4℃を記録してしまうという恐怖体験もありながら、発症から5日間という療養期間を過ぎた現在、回復気味ではあるものの、未だ倦怠感は残り、昼夜を問わず寝たり起きたりを繰り返している。

 繰り返しながら思うのは、吸血鬼ってコロナのような感染症のメタファーとして生み出されたものなんだろうな、ということだ。今回取り上げるのは、そうした吸血鬼にマスク姿で立ち向かう映画『サントVS吸血鬼女』である。

 タイトルの「サント」は、メキシコの超人気プロレスラー「エル・サント」のこと。メキシコではプロレスが「ルチャ・リブレ」と呼ばれ、国民的な人気を持つ大娯楽産業として隆盛を誇っているのだが、その人気を背景に、1950年代の終わりから80年頃にかけてレスラーが主演する映画が膨大に制作された。本作は中でも最大の人気を誇る大スター「エル・サント」が、数百年の眠りから蘇った吸血鬼軍団と対決する一作。

 当時のメキシコでプロレスがどのように受容されていたのかは詳しくないのだが、本作におけるエル・サントは、普段はきちんとプロレスラーとして活躍しながら、市民を助けるために正義のヒーローとしても日々活動を行っている人物として描かれる。リング上の正義のレスラー設定がそのまま物語上にも反映され、誰もがそれを当然のこととして受け入れているかのようであり、そういうものだと強引にでも思っておかないと、いろんなことの唐突さに面食らってしまう世界観でもある。

 とはいえ、受け入れてしまえばあとは気楽に楽しむだけに徹することのできる純粋な娯楽映画であるのも間違いなく、病み上がりにもちょうどいいテキトーさが心地よい作品でもあった。ちなみにサント主演映画は50作品以上存在するらしく(ルチャ映画は当然もっと多い)、積極的に追いかける気にはならないものの、いざというときにいつでも見られるようにストックしておきたい、と思わなくもない。

 なお、本作における吸血鬼はあくまでも単なるモンスターであり、特にこれといって感染症のメタファー的扱いは受けておらず、サントのマスクも(覆面レスラーのほぼ全員がそうだが)呼吸しやすいように鼻と口に穴が空いていて、感染症対策としては全く役に立ちそうもない。それどころか通常のマスクとは防護する位置が逆なだけに、最近しばしば見かける「逆バニー」を連想してしまい、全然コロナ感染と関係ないな、と思ってしまうのであった。

(文/田中元)

田中元画像.jpeg文/田中元(たなか・げん)
ライター、脚本家、古本屋(一部予定)。
https://about.me/gen.tanaka

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