もやもやレビュー

生きづらさを感じる人にみてほしい。『すばらしき世界』

すばらしき世界
『すばらしき世界』
役所広司,仲野太賀,六角精児,北村有起哉,白竜,キムラ緑子,長澤まさみ,安田成美,梶芽衣子,橋爪功,西川美和,西川朝子,伊藤太一,北原栄治,西川美和
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 最近ではドラマ『VIVANT』で、テロ組織のリーダー・ベキ役の記憶が新しい役所広司さんですが、本作では、元殺人犯の役を見事に演じられています。

 『ゆれる』『永い言い訳』の西川美和監督が、初めて実在の人物をモデルに描いた直木賞作家・佐木隆三さんの小説「身分帳」を原案にして、舞台を約35年後の現代に置き換えて映画化しました。

 三上正夫(役所広司)は、人生の大半を刑務所で過ごした中年男性。元殺人犯で、旭川刑務所で13年の刑期を終え、上京します。出所と同時に、人探しをする番組のテレビ局宛てに母親を探してほしいと身分帳を送っていました。彼は、4歳で母親と離れ離れになり、そのまま養護施設に預けられてからは母親とは音信不通の状態でした。
 
 身分帳には、三上の生い立ちや暴力団と関わっていたこと、前科が多数あること、殺人を犯したことなどがびっしりと書かれていました。それを読んだ、テレビ局の元スタッフの津乃田(仲野太賀)は、怖気づきながらも三上と会い、気さくに話しをする彼とすぐに打ち解けます。

 今度こそ堅気の人生を送ろうと決意しましたが、やはり前科のある三上には、生きづらい世の中でした。働きたくても働き口がみつからなかったり、生活保護も渋られてしまったり...。さらに持病の高血圧で、体調も万全ではなく、思うような再出発というわけにはいきませんでした。

 そんな折に、チンピラに絡まれ困っているサラリーマンに遭遇し、助けようと間に入りますが、我を忘れたかのように本気でチンピラを叩きのめす三上の姿がありました。彼は、短気ですぐカッとなり、強面の見た目に反して優しくて真っ直ぐな性格でした。身元不明で母親と早くに離別した素性も関係している彼自身の性格も、生きづらさの足かせになっていたのです。

 でも、彼は人に恵まれたのでした。それは、前科者でもありながらも噓のつけないまっすぐで優しく正直な性格の三上だからこそ。津乃田や、彼を温かく受け入れてくれた身元引受人の庄司夫妻(橋爪功、梶芽衣子)を始め、生活保護の担当・井口(北村有起哉)や、近所のスーパーの店長・松本(六角精児)など皆、彼の再スタートを応援してくれたのでした。

 前科のあるなしに関わらず、今の現代社会の生きづらさを抱えている人皆に見てもらいたい本作です。自分らしく生きる難しさについて、とても考えさせられます。色々な人がいる社会の中で、自分に正直に生きることは簡単なようで難しいですが、その人らしさを長所として見てくれる人も必ずいる。そんなことを強く思った映画でした。

(文/森山梓)

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