もやもやレビュー

パコダがいる人生と、いない人生『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』

ザ・ロイヤル・テネンバウムズ (字幕版)
『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ (字幕版)』
Danny Glover,Gene Hackman,Anjelica Huston,Gwyneth Paltrow,Luke Wilson,Owen Wilson,Bill Murray,Ben Stiller,Owen Wilson,Wes Anderson,Barry Mendel,Scott Rudin
商品を購入する
>> Amazon.co.jp

危機的状況に陥るとなぜかいつも隣にいる。そんな人が人生にいるといないとでは、基盤の安定具合がまるで違う。ウェス・アンダーソン監督の初期作品『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』(2001年)にもこんな人物がいる。パゴダ(クマール・パラナ)だ。

あらすじを先に説明しよう。本作は架空の家族、テネンバウム家に焦点を当てた物語である。家族構成は長いこと別居してきた両親のロイヤル(パパ)とエセリン(ママ)、マーゴ(娘、養子)、チャジー(長男)、リッチー(次男)で、全員が何かしらの傷を負っているという設定。ばらばらだった家族はロイヤルが病気を患ったという報せにより、何年かぶりに実家に大集合する。集まったはいいが、ムードはちょっと陰気。なにせ病気を患っているらしいロイヤルは過去の行いのせいで、ほぼ全員から嫌われている。そんなロイヤルの目下のゴールは、死を目前(?)に家族との関係を修復することだ。果たしてテネンバウム家は多少なりとも幸せな形に近づけるのだろうか......!

パゴダに戻る。彼は嫌われ者のロイヤルの相棒であり、テネンバウム家の使用人である。ロイヤルの仲直り作戦が軌道に乗るよう家族の最新情報をロイヤルに届けたり、お金が底をついたときに同じ勤務先で働いてくれたり(これは若干やむを得なくだが)、ロイヤルがひとりではやりきれないかもというときに、必ずそばで支える......というよりも、ただそこにいるといったほうが正確かもしれない。パゴダの行いは使用人の業務範囲とは思えないほど行き届いていて、情なのかおもしろがっているのかは明らかではないが、とにかく頼もしい。頼りがいがあるとはいえど、決してロイヤルを甘やかさない。そんなところもまたいい。過去にどんなにいやな人であったとしても、いざ更生しようと決めたのなら、支える人がひとりくらいは必要なのだ。

(文/鈴木未来)

« 前の記事「もやもやレビュー」記事一覧次の記事 »

BOOKSTAND

BOOK STANDプレミアム