もやもやレビュー

邦題が良いのです。『家へ帰ろう』

家へ帰ろう(字幕版)
『家へ帰ろう(字幕版)』
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 2017年のスペイン・アルゼンチン合作映画。監督はアルゼンチンの人気脚本家パブロ・ソラルス。自身もユダヤ人で、ホロコースト体験者の祖父を持ち、偶然カフェで聞いたという実話が元になった本作です。

 アルゼンチンに住む仕立て屋のアブラハム(ミゲル・アンヘル・ソラ)は、足を悪くし、娘達に住み慣れた家を売られ、老人ホームに入ることになっていました。しかし、その前日に、偶然見つけた最後に仕立てたスーツを、70年以上会っていない友に届けたいと家出することにします。その目的は、ユダヤ人であるアブラハムが、ホロコーストから生還した際に救ってくれた親友に会う約束を果たすためでした。
 
 悪化した右足を抱えた88歳のおじいちゃんが行く、アルゼンチンから故郷ポーランドまでの旅の大変さは、想像に難くないものでした。が、その道中、様々な出会いが彼を助け、彼の心を解きほぐしていきます。
 アブラハムのホテルの部屋に泥棒が入っても、ホロコーストの壮絶な記憶からドイツを一歩も踏みたくないという願いにも、友の住んでいるはずの旧家に連れて行ってほしいという願いにも、支えになったり助けてくれる人が現れます。飛行機で隣になった青年(マルティン・ピロヤンスキー)や、お金があるのに宿泊代を値切ろうとしたホテルの主人(アンヘラ・モリーナ)、パリの駅で出会ったドイツ人文化人類学者(ユリア・ベアホルト)に、倒れて入院することになった先の病院の看護婦(オルガ・ボラズ)などなど。

 アブラハムは、偏屈で頑固だけれど、とても人間臭くて自分にも相手に対しても正直。そしてオシャレです。その何とも言えない魅力ある人間性が人を惹きつけるのでしょう。また、その人間性もさることながら、彼の顔には深く刻まれた皺と、するどい力のある眼光があり、背負ってきた過去のあまりにも深い絶望や憎しみ、苦悩などひと言では言い難い感情を感じるものがありました...。

 タイトルからはほっこりしたお話かと思いきや、ホロコーストという非常に重いテーマが土台にあります。旅の道中、アブラハムの生い立ちや家族のことが段々と浮き彫りになっていきますが、ストーリーはロードムービー仕立てで、戦時中の直接的な描写はありません。ですが、アブラハムが、ホロコーストでの体験や過去を語るシーンや回想する場面だけで、その悲惨さ、残酷さのひどさが返って痛いほど伝わりました。それだけに必見のラストシーンです。気づけば号泣していました。先入観なくみてほしい作品です。

(文/森山梓)

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