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【無観客! 誰も観ない映画祭】第29回『ヅラ刑事(デカ)』

ヅラ刑事 [DVD]
『ヅラ刑事 [DVD]』
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『ヅラ刑事(デカ)』
2006年・トルネード・フィルム配給・80分
監督/河崎実
脚本/河崎実、中野貴雄
出演/モト冬樹、ウガンダ・トラ、イジリー岡田、なべやかん、桐島優介、中野英雄、斎藤工、飯島愛、さとう珠緒ほか

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 今回は「叶井俊太郎ミーツ河崎実」作品の紹介です。河崎実監督と言えば『かにゴールキーパー』(06年)、『日本以外全部沈没』(06年)、『地球防衛未亡人』(14年)などと変な映画ばかり撮っているバカ映画の巨匠です。2人は『いかレスラー』(04年)で初めてタッグを組んで以来、現在も関係が続いているよきパートナーで、河崎作品と叶井さんとは親和性バッチリなのです。

 河崎監督は業界でも有名なウルトラマンマニアですが、頭に乗っているトサカ状の武器を相手に投げるウルトラセブンの必殺技アイスラッガー。これをカツラに置き換えて、モト冬樹に投げさせたのが『ヅラ刑事』。そんな失礼なこと、誰も考えつきませんよ、監督! ですがモト冬樹は仕事の6割が毛髪関連で、アートネーチャーのCMなど薄毛ネタを売り物にしていたので、むしろ初主演は渡りに船だったようです。

 ついでに、こんなエピソードをひとつ。ニコラス・ケイジが来日した際、「日本のニコラス・ケイジ」(笑)と呼ばれたモト冬樹が花束を渡すシーンがありました。その時ニコラス側のスタッフから「頭のことは絶対に言わないで」と注意があったのです。ところが『SMAP×SMAP』(フジテレビ)にゲスト出演したニコラスが、知っている日本の俳優としてモト冬樹を義理で挙げたところ、中居正広が「あ~、ヅラ刑事の! こんな映画の依頼が来たらどうします?」(うわ......)。これで花束贈呈がモト冬樹だった理由を理解したニコラス側は、以降は彼を共演NGにしたのです。もしもニコラスの心が広ければ、ニコラス刑事とバディを組む『ダブル・ヅラ刑事』なんて夢の共演が実現......するわけありませんか。でも叶井さんならオファーしますよ、きっと。

 内容は、奇人変人デカばかりが集まった花曲署(『太陽にほえろ!』七曲署のオマージュ)の捜査課が活躍する刑事コメディーです。原発に輸送中の核燃料をテロリスト集団が強奪し、核爆弾によって政府に50億円を要求します。源田(モト冬樹)達がアジトに踏み込むと、犯行グループのリーダーは超意外な人物だった! といった感じです。ここで花曲署のメンバー紹介をしておきましょう。

 主人公の源田初男は通称「ヅラ」。逮捕した犯人をハゲます人情に厚い中年刑事。得意技は、カツラを投げて相手の拳銃を叩き落す「モト・ヅラッガー」。かつて源田はバーで恋人に求婚中、前屈みになってヅラが外れてしまい「私、ハゲチャビンだけはダメなの!」と大失恋。ヤケになって「こんなもん!」と投げ捨てたヅラが「キ~ン」(ちゃんと『ウルトラセブン』と同じ効果音)と飛んで行き、店の花瓶を粉々にしたのです。「コレだ!」と開眼した源田は、あくる日から河川敷の橋の下でヅラを空き缶に百発百中命中させる特訓を開始したのでした。

 以下のメンバーは、怪力の持主・鍋屋寛一(芸人のなべやかん)、通称「チビ」。滝のように流れる汗で敵を攻撃する宇川厳太、通称「デブ」。演じるは、モト冬樹とはコミックバンド「ビジーフォー」仲間だったウガンダ・トラ。『冬のソナタ』を再現した心理作戦で女性犯罪者を落とす池田麺次郎、通称「イケメン」は、『ウルトラマンネクサス』(04年)の主役・姫矢准(桐島優介)が演じました。性的興奮を覚えるとアソコが極太のライトサーベルのように巨大化して敵を殴り倒す中東和平、通称「デカチン」。高速ペロペロのイジリー岡田の怪演が光ります。『太陽にほえろ!』の長さん(下川辰平)ぽい角刈りの叩き上げ刑事・大矢治五郎(浜田道彦)は、通称「オヤジ」。得意技はオヤジギャグ。婦人警官・太田淑子に扮した橋本真依(当時、まい)は、ダンス部で有名な登美丘高校出身でAKB48や乃木坂46などの振り付け師という華麗な経歴の持ち主でした。

 そして捜査課を「見世物小屋」と呼ぶボス・面堂啓介を演じるのは、仲野太賀パパの中野英雄。石原裕次郎のように睨みを利かせ「よーし、デカチンとヅラは過激派リスト洗え。チビとデブは聞き込みだ」と指示していくのです。ついでにもう1人、面白い人が出ています。公安査察官の幹部・八田は、ブレイク前の斎藤工。初々しいです。

 こんな感じで、とにかく濃いメンバーなのですが、脇も何気に濃いのです。キャバクラでキャバ嬢を人質に立て籠もるチンピラにマキタスポーツ。聞き込みに行った高校の校長は『帰ってきたウルトラマン』のスーツアクター・きくち英一。その高校の物理教師・蛇沼徹也は、河崎実監督と親交の厚い実相寺昭雄(当作品でも題字をしたためました)作品でよく見る怪優・堀内正美。女子更衣室を覗いたことをテロリストに脅され原爆を作らされるトンデモナイ役です。源田の頭をガン見して「それって...ヅラ?」と疑う、故・飯島愛(モト冬樹の親友)とさとう珠緒の友情出演コンビ。そしてヒロイン役として、当時サントリー「ジョッキ生」のCMに出ていた江口ヒロミが母子の二役を演じますが、重要な役柄なのでここはネタバレを避けて伏せておきましょう。

 劇場では「ヅラ割引」として、チケット窓口でヅラを外したら無料となるキャンペーンも行われましたが、そんな人ホントにいたのでしょうか(笑)。映画は話題となり、翌2007年10月14日にはフジテレビで続編『ヅラ刑事 頭上最大の決戦』が放送されました。ヒロインのヌーブラ刑事(グラドルの北川弘美)が自分のヌーブラを投げて敵を倒すという、相変わらずクダラナイ(誉め言葉)内容でした。

 昨年の12月、「第1回東京国際叶井俊太郎映画祭」(ヒューマントラストシネマ渋谷)で、河崎監督作品『日本以外沈没』上映終了後、客席にいた河崎監督が舞台に上がり、叶井さんに向って「困るよ、死んじゃ! 俺の映画を配給・宣伝してくれる人なんて今までいなかったんだから。俺がゾフィーだったら、命を1個あげたいよ」。これは『ウルトラマン』の最終回で、最強怪獣ゼットンに敗北した瀕死のウルトラマンを故郷に連れ帰るため迎えに来た仲間のゾフィーが「私は命を2つ持ってきた」と言って、ウルトラマンが乗り移っていたハヤタ隊員を生かしたシーンを表したもの。盟友・河崎実監督らしいエールでした。

【著者紹介】
シーサーペン太(しーさー・ぺんた)
酒の席で話題に上げても、誰も観ていないので全く盛り上がらないSF&ホラー映画ばかりを死ぬまで見続ける、廃版VHSビデオ・DVDコレクター。「一寸の駄作にも五分の魂」が口癖。

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