もっと酷い目に遭ってもいい『マシンガン・ツアー ~リトアニア強奪避航~』
- 『マシンガン・ツアー 〜リトアニア強奪避航〜』
- ヴィニー・ジョーンズ,スコット・ウィリアムズ,ジル・ダーネル,オリバー・ジャクソン,アンソニー・ストラッチャン,ミリス・ヴェリビス
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数年前、書籍のゴーストライター的な仕事依頼を受けた。基本がいくらいくら、追加作業が発生したらその都度ギャラアップというもの。発注してきたのは旧知の人物A氏だったので、義理と人情も加味した上で引き受けることとした。
仕事は一応、無事に終わった。追加作業も幾度かあった。だがその後、連絡が途絶えた。といっても雲隠れしているわけではなく、A氏のSNSを覗くと数分前に景気の良さそうな自分の仕事アピールが投稿されていたりする。ひとまず電話をかけて、その後の進み具合はどうかと聞くと、順調です! などと元気良く返答があり、じゃあ振り込みはいつかと問うと、一応の目安を言われたので、現状これ以上突っ込むのも難しいと判断してその場は話を終えた。
数ヶ月が経過して、ギャラ振込の目安とされた時期が来たが、入金はなかった。電話をした。実はクライアントから振り込みがなくて、とA氏。いや、俺が仕事を引き受けたのはあんたからなので、先方がどうこうじゃなくて俺への振込はいつなんだ、と聞くと、来月で、と言われる。A氏も困っているのかもしれない。一ヶ月待った。
また振込はなく、また電話をしたところ、すぐに振込のことですよね、と言われた。忘れたふりをしないだけ良いのだが、週明けまで待ってくださいと言うので、ちょっとイライラしながら待った。月曜、振込はない。電話。すぐ入れます。翌日、無事入金があった。が、金額を確認したら追加作業分が入っていない。電話。来月入れます。またか。一応、待ってみた。一ヶ月後、振込なし。電話。相変わらず先方から入金がなくて。事情なんて知らねえよ、今日入れるって言っただろ。入れます、すぐ。
翌日、A氏から電話があり、自信満々に入金したと言う。電話を切らずにスマホでその場で確認。確かに入っている。これにて解決だが、ついつい言ってしまった。この日までにやると言いながら絶対にやらないのを平気で何度も繰り返すのってどんな気持ちなの? それは先方から入金がなくて云々などとまた言い訳。もういい。電話を切った。以後、A氏と連絡は取っていない。その書籍が刊行された気配はなく、A氏は廃業したらしいと風の噂に聞いた。
映画『マシンガン・ツアー ~リトアニア強奪避航~』は、借金を抱えてにっちもさっちもいかなくなった連中が、ギャングを襲って金を奪い、マレーシアに高跳びするつもりが気候変動の影響でリトアニアに到着してしまうクライムコメディだ。
行き先は変われど奪った大金は手元にあるので悠々自適のはずだったが、彼らが現地で出会う人々のほぼ全てが悪人ばかり。さらに地元イギリスからもギャングが後を追ってきてさあ大変。なのに銃撃戦はほどほどに、ほとんど拳の殴り合いの大騒動が繰り広げられる、全編ケレン味に溢れてかっこいいのに不潔で不格好な、まるで『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』や『スナッチ』といった初期ガイ・リッチー監督作品のテイストを再現したかのような雰囲気。実際、その2作品に出演しているヴィニー・ジョーンズが本作でもギャングのボスを演じているので、なおさらその感を強める。快作。
とはいえ借金に困った挙句に余計なことをやらかしてしまう主人公たちに、もしかしたら筆者もA氏をこのように追い詰めていたかもしれないよな、などとも想像してしまい、ちょっと反省もさせられた。主人公たちに肩入れできる視点で撮られていることもあるからだろう。A氏は今、どうしているのだろうか。
なんてことを思いながら、たまたま共通の知人のSNSを開いたら、A氏にギャラを踏み倒されたと告発する投稿が目に入ってきた。日付は一週間ほど前。筆者と揉めて数年経って、よそでもいまだに同じことをしていたのである。追い詰めたかも、なんて反省は無駄だった。それどころかA氏も一回高跳びして、その先で『マシンガン・ツアー』並みに酷い目に遭ってもいいんじゃないの? 俺はもう支払わせてるから痛くも痒くもないし。
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文/田中元(たなか・げん)
ライター、脚本家、古本屋(一部予定)。
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