わかり合う難しさ『こわれゆく女』
- 『こわれゆく女 (字幕版)』
- ジーナ・ローランズ,ピーター・フォーク,マシュー・カッセル,マシュー・ラポート-,ジョン・カサヴェテス
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どれだけ愛している人とでも、うまくコミュニケーションが取れないことがある。ニンジンが嫌いだと何度も言っているのに、なぜかニンジン入りの料理を笑顔でふるまわれる、などなど......。こんなのはかわいいもので、ジョン・カサヴェテス監督の『こわれゆく女』(1974年)に見られる会話の難しさはもう少しシビアである。
話の中心にいるのは、メイベル(ジーナ・ローランズ)とニック(ピーター・フォーク)夫妻と、彼らの3人の小さい子どもたち。メイベルは溢れんばかりの愛情を持ちながらも、常に様子が少しおかしい女性。ニックは思いやり深いのと同時にカッとなりやすい男性。二人ともやや難ありだが、お互いをとても愛している。ただ、どうも相手をうまく扱えない。
たとえばメイベルは空気を読むのが得意ではない。ニックはそうと知りながらも、そんなメイベルに苛ついては声を上げ、ときには手も上げる。彼の抑圧的な態度の影響もあってか、メイベルはどう振る舞えばいいかわからずに、彼女自身も、二人の関係も、だんだんとこわれていく。
メイベルがニックに、「どんな人になればいいか教えて。私はその人になる」というシーンがある。普段はどちらかといえばハツラツとしているが、歩み寄ろうとするメイベルの眼差しは切実だ。だが一言でパッと修復できないこともある。会話は簡単なようで、難しい。喧嘩で飛び出るトゲトゲしい言葉が心に積もり、人を変えてしまうこともある。登場人物の写し方も会話も生々しく心がどうしても重たくなってしまうが、ローランズやフォークの心を突き刺す演技力は圧巻で、心を沈ます価値があるとすら思えてしまう名作である。
(文/鈴木未来)