もやもやレビュー

おどろおどろしい......でも泣ける『ザ・フライ』

ザ・フライ (字幕版)
『ザ・フライ (字幕版)』
ジーナ・デイビス,ジェフ・ゴールドブラム,ジョン・ゲッツ,David Cronenberg,George Langelaan,Charles Edward Pogue,デイビッド・クローネンバーグ,Marc Boyman,Mel Brooks,Stuart Cornfeld,Kip Ohman
商品を購入する
>> Amazon.co.jp

女性を口説くのがいまひとつ得意ではない天才科学者のセス・ブランドル(ジェフ・ゴールドブラム)が、ある出来事をきっかけにお色気むんむんの肉食男子に変身......と思ったのも束の間、だんだんとハエと遺伝子を分けた不気味な生き物に変身していく。『ザ・フライ』(1984年)のあらすじは、ざっくりとこんな感じである。監督は、人間の体をグロテスクに見せることがお得意のデヴィッド・クローネンバーグだ。

なぜハエに......!?と思うが、理由はちょっとしたエラーにある。ブランドル氏が自身で開発した瞬間移動マシンに実験台として乗り込んだときに、ハエが紛れ込んでしまったのだ。彼のマシンの仕組みとして、まず片方のポッドに入り細胞レベルまで分解される。次の瞬間に、少し離れた場所にあるもう片方のポッドで、データをもとに人やモノが再構築される。つまり最初のポッドに混入したハエを、ブランドルの体の一部として再構築されてしまったのだ。

一見、この二つが合体したことはわからない。ハエ男への変貌は段階的なのだ。まずは体がムキムキになり、やがて壁を這うようになり、ついには体の至る部位や皮膚が剥がれ落ち、ハエの見た目をした人間に変わっていく。ブランドルは最初のうちは楽観的である。しかし修復の術が見つからず、立派な発明を完成させる夢が遠のいていくと、恐怖と悲しさでたちまち弱っていく。いくら格好が気持ち悪くても、その姿を観ると胸が痛む。クローネンバーグ監督いわく、ブランドルの変貌は年齢を重ねていく人間を揶揄しているそうだ。そう聞くと恐ろしさがさらに増すが、できることなら老いについてもう少し楽観的でいたいものである!

(文/鈴木未来)

« 前の記事「もやもやレビュー」記事一覧次の記事 »

BOOKSTAND

BOOK STANDプレミアム