コントロールを失うって、怖い『ビデオドローム』
- 『ビデオドローム [Blu-ray]』
- ジェームズ・ウッズ,ソーニャ・スミッツ,デボラ・ハリー,ピーター・ドゥヴォルスキー,デヴィッド・クローネンバーグ
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いまや動画配信サービスがあまりにも主流で、VHSで映画を見ていた時代が幻のように思える。振るとカタカタ鳴る長方形の黒い物体。ビデオデッキにそっと押し込むと映像が流れ出す。一方で『ビデオドローム』(1983年)に出てくるVHSは少し様子が違う。デッキだけでなく主人公のおなかに押し込まれるうえに、見た目はまるで臓器のようで、ドクドクと脈まで打っている。
当時のニュース記事によると、VHSが大きな役割を果たす『ビデオドローム』が公開されたころ、アメリカでは7人に1人がビデオデッキを所有していたらしい。本作はVHSが広まり、これまで以上にいろんな映像から情報を吸収できるとなると、人間はどう変わってしまうのか......なんてことも想像しながらデヴィッド・クローネンバーグ監督が作った映画だそうだ。そうしてできた作品では、テレビ局の社長で主人公のマックス(ジェームズ・ウッズ)が拷問と殺人が繰り返される番組を見たことにより脳に腫瘍が生じてしまい、現実がどんどん幻覚に乗っ取られ、ついには考える力を失ってしまう。
映画が進むにつれて、マックスは映像で目にした暴力的な行動を自ら起こすようになる。最初のうちは暴力なんて自分らしくないと感じているようにも思えたが、いつしか別の誰かの意思が働いているかのように平気で暴力をふるうようになる。映像で見たものに影響されて行動してしまうことはいまや誰にでもあることかもしれないけれど、自分ではどうにもできないところまで何かしらに思考を乗っ取られてしまうことは全く別の話である。コントロールを失うって、怖い。そんな恐怖がたっぷりと味わえる一本である。
(文/鈴木未来)