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【無観客! 誰も観ない映画祭】第19回『ロボハンター 霊幻暗黒團大戦箏』

『ロボハンター 霊幻暗黒團大戦箏』※VHS廃盤(筆者私物)

『ロボハンター 霊幻暗黒團大戦箏』
1988年・香港、米・90分
監督/ジョー・リビングストン
脚本/ウィリアム・パーマー
出演/ハリー・マイルズ、ジョー・ブラウン、ダイアナ・バーン、ニック・ノーマンほか
原題『ROBO VAMPIRE』

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 1980年代後半、『霊幻道士』(85年)と『幽幻道士』(86年)によってキョンシー・ブームが巻き起こり、それぞれシリーズ化されました。そんな最中『ロボコップ』(87年)が大ヒットすると、偽者ブルース・リー映画やニンジャ映画などでマニアに知られるフィルマーク社が、「キョンシーとロボコップを戦わせてみよう」と小学生的発想で製作したのが本作です。だが1996年、フィルマーク社が入っているビルが全焼し、トーマス・タン社長を含む40名が死亡するという痛ましい火災が起きました。社屋に保管されていた自社作品の原版フィルムも全て焼失したため、80年代に発売されたVHSテープは貴重な映像資料となっているのです。今回は、そんな蔵出し香港映画をお楽しみください。

 香港の麻薬密売組織は、国際警察の腕利き捜査官トムの摘発に苦戦を強いられていました。そこでボスは邪魔者トムを消そうと、キョンシー使いの道士を雇います。荒れ寺に放置された棺の中から、数体のキョンシーが「ピョン、ピョン」と蘇り、なぜか1体はドンキで売っているゴリラマスクみたいな顔をしています。道士は組織の手下らと共に、麻薬入りの袋をキョンシーの服に詰めていきます。キョンシーを運び屋にして、トムが現れたら殺させようというのです。

 ここで突然、白人女の幽霊が『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』(87年)みたいにヒュ~と飛んできて「よくも私のピーターを甦らせたわね。あの世で一緒にゆっくり暮らせると思っていたのに」とメチャメチャ怒っています。このクリスティーンという幽霊、ゴリラ顔キョンシーのピーターと交際していたが、彼の両親に国際結婚を反対され心中していたのでした。ここでクリスティーンと道士が妖力を駆使して戦い始めますが、ボスの代理で来ていた組織の幹部が「望み通り添い遂げさせてやろう」と道士に提案します。道士は受諾して婚礼の儀式を司り、死人カップルもニコニコです。よく解りませんが、無駄な争いを避け、とりあえずクリスティーンの怒りを収めようといった感じですかね。

 翌日、幹部2人と道士を乗せた車が国際警察に待ち伏せされます。幹部が2人とも銃殺されると道士はヒョウタンからキョンシー4体を登場させます。捜査員はキョンシー軍団に次々と葬られ、トムもピーターの両手指先から「ババババ!」と火花を散らせて発射する閃光弾(たぶんロケット花火を使用)で病院送りにされます。瀕死のトムは右の円形メーターに「+(プラス)」、左のメーターには「-(マイナス)」と電飾表示されている謎の装置に繋がれます。やがて「+」が消え「-」が明滅すると、医師が首を横に振ります。「マイナス=死亡」ってか(笑)。

 ここで国際警察は、トムをロボットとして蘇らせる事にします。博士がせっせとトムの頭の下に機械を組み立てていくと、例の装置のメーター表示が「-」から「+」に変わり「ギー、カシャン」と起き上がります。その姿は......中学生が文化祭で作ったようなロボコップのコスプレ......いや全身銀色のメタルヒーローに生まれ変わっていました。でも頭部はヘルメットなのに対し、首から下は消防士みたいな厚手の服を銀色に塗っただけで硬質感ゼロ。ビデオジャケットのカッコいいイラストは嘘っぱちでした。ちなみに脳は生きているので正確にはサイボーグですが、ここはタイトルに従って以降「ロボハンター」と呼ばせてもらいます。

 ロボハンターは因縁の相手ピーター・キョンシーとリターンマッチし、トムの命を奪った花火ミサイルを跳ね返し雪辱を果たします。しかし組織の構成員が肩に担いだ無反動砲を受けて大炎上し、研究所に運び込まれます。博士はDIYテイストでチョチョイと工具を使ってロボハンターを修復します。一方、トムを引き継いだ捜査官レイが雇った傭兵部隊が密売工場潰滅に向けて現地入り。組織のボスと因縁があるという男を仲間に引き入れます。その妹も加わり、川で全裸水浴びのお約束サービス。どんどん増えていく無名俳優の新キャラに誰が誰だかわかりません。やがて傭兵部隊は3人の死者を出しながら捕虜を救出し、工場の爆破に成功します。

 その一報を香港のアジトで聞いたボスが悔しがっていると「ガシャン、ガシャン」とロボハンターが現れます。道士はピーター以下キョンシー軍団を出現させ、いよいよロボハンターと決着です。ロボハンターは3体のキョンシーをバッタバッタと倒し、残るはピーター1体。劣勢のピーターに道士は「いかん、パワーアップだ!」と印を結ぼうとします。その瞬間、無意味にオッパイを出したクリスティーンが現れ、道士の顔面をガシッと叩いて殺します。妖力を失ったピーターは、ロボハンターの火炎放射によって燃やされしまうのでした。

 実はフィルマーク社の映画って、二束三文で買い付けた作品をツギハギ編集して台詞も変え、新撮部分を加える「ニコイチ(複数を一つにする意)映画」と呼ばれるものが多いのです。そのため香港シーンと密造工場シーン(タイかフィリピンの山森でロケしたアクション映画を編集)が別の物語のように乖離していて、ロボハンターとキョンシーが密売工場の出演者と同画面にいる事はないのです。また監督はジョー・リビングストンとクレジットされていますが、名前だけで実質の演出は1年に10本のペースで低予算映画を撮り続けた伝説の職人監督ゴッドフリー・ホー。出演者の名前も適当にでっち上げたらしいです。さて次回は、この流れで『ロボ道士 エルム街のキョンシー』をお届けします。お楽しみに!

(文/シーサーペン太)

【著者紹介】
シーサーペン太(しーさー・ぺんた)
酒の席で話題に上げても、誰も観ていないので全く盛り上がらないSF&ホラー映画ばかりを死ぬまで見続ける、廃版VHSビデオ・DVDコレクター。「一寸の駄作にも五分の魂」が口癖。

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