全てが愛おしく思えてしまう『きのう何食べた?』
- 『劇場版「きのう何食べた?」』
- 西島秀俊,内野聖陽,山本耕史,磯村勇斗,マキタスポーツ,中江和仁
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本作は、講談社「モーニング」に連載中の、よしながふみの漫画作品。2019年にドラマ化され、2021年に劇場版が公開されました。
街の小さな法律事務所で働く雇われ弁護士・筧史朗[シロさん](西島秀俊)と、その恋人で美容師の矢吹賢二[ケンジ](内野聖陽)は、仲良く同居しています。シロさんの作る料理はいつも美味しく、二人で囲む食卓は幸せそのものです。
そんな中、ケンジの誕生日祝いにと行った京都旅行で、ケンジは、シロさんから、親から正月の帰省にはもうケンジを連れてこないでほしいと言われたという話を聞かされます。ケンジの人柄の良さは分かっていても、男の人と一緒にいる息子の姿を目の当たりにすると母親が体調を崩してしまうからだと言います。
また、ケンジの方も、父が亡くなり、葬儀にと帰省します。そこで、美容院を営む母から店を継がないかと言われます。同性の恋人は最期まで一緒にいてくれるのかと、寂しがりやの息子の身を案じての発言でした。
こうして幸せに描かれていた暮らしも、親との関わりによって、二人にも迷いや悩みが訪れます。
そして、シロさんはケンジを優先させると言います。「正月もいいじゃないか、オレとお前だけで」と。ケンジにとってはすごく有り難い言葉でしたが、自分たちは二人で生きてるわけではないからと、「シロさんはこれまで以上にお父さん、お母さんと仲良くしてね」とシロさんのことを思いやります。
ケンジの優しさを受け取り、実家に何気ない用事で帰った際に、シロさんは、お母さんから「これからはあなたはあなたの家族を一番大事にしてね」という言葉をかけてもらうのでした。
大事な人たちがいてその中でどちらかを選択しなければならないとき、自分のしたい方を選ぶことは簡単に見えて、容易ではないことは往々にしてあると思います。そんなときに何を優先するか、また、それをどう伝え、どのように理解してもらうか、とても考えさせられました。
本作は、シロさんの作る料理然り、シロさんケンジカップルを取り巻く人たちとの人間関係然り、何事もだいじに丁寧に向き合う姿にとてもほっこりさせられます。身の周りのもの、身近な人、全てを大切にしたくなるおススメの一作です!
(文/森山梓)