もやもやレビュー

同名作多数だけど間違えたっていい『マスターズ・オブ・ホラー』

マスターズ・オブ・ホラー(字幕版)
『マスターズ・オブ・ホラー(字幕版)』
ミッキー・ローク,リチャード・チェンバレン,アダム・ゴドリー,エリザベス・リーサー,アナベス・ギッシュ,デヴィッド・スレイド,アレハンドロ・ブルゲス,ミック・ギャリス,ジョー・ダンテ,デヴィッド・スレイド,北村龍平,アレハンドロ・ブルゲス,ミック・ギャリス
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 オムニバス映画はホラーやSFといったジャンルと相性が良い。長編には展開しづらいものの刺激的なワンアイデアをサクッと描く短編集というスタイルが、アイデア重視のそうしたジャンルに向いている、のかもしれない。実際には他ジャンルのオムニバス映画というものも少なからず存在しているが、「オムニバス映画」などで検索してみると、上位に引っ掛かってくるものの大半はSFやホラーだ。

 ルーツとして考えられるのは、ともに1959年にアメリカで放送がスタートした一話完結のSF・ホラーアンソロジー番組『世にも不思議な物語』『ミステリーゾーン』の存在だろう。どちらも各国で人気を博し、似たコンセプトの番組も以後、現在に至るまで多数制作、放送されている。

 『ミステリーゾーン』は1983年に『トワイライトゾーン/超次元の体験』として、当時の若手人気監督、ジョン・ランディス、スティーブン・スピルバーグ、ジョー・ダンテ、ジョージ・ミラーが各エピソードを監督する形で劇場用にリメイク、以降もテレビシリーズとして3回もリブート版が制作されたこともあり、「オムニバス映画」とは何かを説明する際に「トワイライトゾーン風」といえば誰もが一発で理解できるほどの貢献を果たしている。
 こうしてSF・ホラーアンソロジー番組や、SF・ホラーオムニバス映画が数え切れないほど世の中に溢れている中、今昔の実力派ホラー系監督を集めて制作された一本が『マスターズ・オブ・ホラー』だ。全編を貫く軸としては、怪しげな深夜上映を行なっている映画館にやってきた人々が、なぜか自分が主人公になっているホラー映画を見せられる、というあたりだろうか。この手の作品は3本立てや4本立てが多い中、本作は5本立て。これだけでもお得感がある。

 さらに、その一作一作が、ベテランから若手まで、ホラーやその周辺ジャンルで名を馳せた監督が担当しているので、本作を糸口に鑑賞作品を広げていくという手もあるだろう。ちなみに本作に参加しているベテラン勢はジョー・ダンテやミック・ギャリス、中堅に日本から北村龍平、若手はアレハンドロ・ブルゲスとデヴィッド・スレイド。

 ただ、ちょっとだけ問題があるとすると、いずれのエピソードもアイデアや怖さがやや微妙で、なおかつきちんと話が落ちていないように思えてしまうところだ。といっても、奇妙なアイデアという意味ではそれぞれ悪くないので、SF・ホラー短編といえば気の利いたオチ、というお約束にこだわらなければ楽しめるかもしれない。特に4話目、デヴィッド・スレイド担当の「出口はこちら」は不安定な精神を異世界として描写しているかのようなイヤな感じが出色。各エピソードは関連していないので、ここだけ見ても良いかもしれない。

 なお、本作を見る際の注意点を。配信で本作を選ばれたのであれば問題はないだろうが、レンタル店で探す場合、『マスターズ・オブ・ホラー』の邦題を持つ作品が他にも複数存在しているのである。一つは1990年の『マスターズ・オブ・ホラー/悪夢の狂宴』。こちらは人喰いゾンビの生みの親ジョージ・A・ロメロとイタリアンホラーの巨匠ダリオ・アルジェントがエドガー・アラン・ポーに挑んだオムニバス映画。すでに古くなってしまった作品なので、そこらのレンタル店では間違える以前に置いていない可能性もある分、まだ安心だ。

 安心してはならないのが、これまた大御所ホラー監督たちが大挙して参加し、2005年から07年にかけて放送されたホラーアンソロジー番組『マスターズ・オブ・ホラー』だ。日本からは三池崇史監督と鶴田法男監督が一話ずつ参加していることでも話題となったシリーズで、しかもややこしいことに90年の同名作品からはダリオ・アルジェントが、今回の作品からはミック・ギャリスとジョー・ダンテも参加しているので、「あの監督が参加している『マスターズ・オブ・ホラー』」と思って探しても間違ってしまいかねない。

 とはいうものの、いずれも中短編であるがゆえ、予算そこそこの小品がほとんどであり、それでいて実力派監督陣が手がけているものなので、間違えて鑑賞したところで同じぐらいの面白さは味わえ、損した気にはならない、と思いたい。ただ、それぞれ全く関係ない作品であり、そもそも原題が「Masters of Horror」なのはテレビシリーズ版のみなのに、なんで邦題を一緒にしちゃってややこしくしちゃうのかな、もう! という気になるのは否めない。

 筆者はかつてレンタルビデオでバイトしていた時代、『ボルケーノ』にあやかってリリースされたB級竜巻映画『ボルケーノ・インフェルノ』なる作品を店頭に並べたところ、本家だと疑わなかった方を目撃してしている。また、『バグダッド・カフェ』にパッケージだけ寄せた『バグダッド・ラフェ』なるエロパロディっぽい作品でも、同様に本家だと思い込んでしまった方がいた。似て非なるタイトルでもそうなんだから、同じタイトルにしたらそりゃ間違えちゃうだろう、と思っちゃうのである。ご覧になったご本人が気にならないんならいいし、本文の最初に書いたオムニバス映画がSFやホラーと相性が良いという話題と全く関係ないところに到達してしまったけど、うまくオチていないまま終わるのは『マスターズ・オブ・ホラー』オマージュです。

(文/田中元)

田中元画像.jpeg文/田中元(たなか・げん)
ライター、脚本家、古本屋(一部予定)。
https://about.me/gen.tanaka

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