もやもやレビュー

燃え尽き症候群のその後...『零落』

『零落』 3月17日(金)よりテアトル新宿ほか全国ロードショー

青春漫画の金字塔「ソラニン」を放ったカリスマ漫画家・浅野いにおの新境地にして衝撃の問題作を完全映画化! 監督は『無能の人』から10作品目となる、竹中直人。今回主演に選んだのは『ゾッキ』で共に監督をつとめた斎藤工。主人公の元人気漫画家・深澤薫を演じる。そして、作品のキーパーソンともなる"猫のような目をした"風俗嬢・ちふゆを趣里が独特の存在感で演じる。敏腕漫画編集者で深澤の妻・町田のぞみをMEGUMIが演じ、さらには玉城ティナ、安達祐実など個性的なキャストがスクリーンを彩る。

長期連載を終え"元"売れっ子となった人気漫画家・深澤(斎藤工)は、次のアイデアも出ず、白紙の原稿に苦しみ、やがて自堕落で孤立した燃え殻のような日々に直面する。妻や編集者、アシスタントと周囲の人々に心をかき乱されていく中で、"猫みたいな目をした"ミステリアスな風俗嬢・ちふゆ(趣里)と出会うのだった。果たしてちふゆは深澤にとって救いの女神か? それとも--。

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本作、好きなことを仕事にしてしまうことの苦しさがひしひしと伝わってくる。夢だったはずの漫画家になって自分が得たものはいったいなんだったのか? 燃え尽き症候群になった先の人間のリアルが描かれている作品。
好きなことをもしも仕事にした時、自分のことを知らない人からは夢を叶えて輝いているように見えることもある。だけど現実は好きなだけではやっていけないリアルが背中合わせとなる。好きなことが生活をする、お金を稼ぐための手段となるからである。

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以前、SNSに映画の感想を書いている知り合いから、映画をただ楽しんでいた時と見方が変わってしまったという悩みを打ち明けられたことがある。映画をみている途中にここのシーンではこう思ったと書こうなどと、自然と考えてしまうという。好きなことになにか使命感や義務感がくっついてくるとそれが足枷のようになってしまうように思った。

本作でも、漫画を素直に楽しめなくなってしまった深澤の姿は印象的だった。それは自分が書けない間にもどんどん生まれる新しい才能への焦りや不安もあったのだろう。エゴサーチをすることで自分の作品を楽しみにしてくれている人の存在をSNSを通じて知ることも出来るが、ネガティブな意見も目にしてしまう。

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人間の汚い部分も他人に見せる営業スマイルも、誰しもが持っている一面である。そのリアルがそこにはあった。そういった善悪の両面を肯定も否定もしないでただみせるといった作風がとても好みだった。仕事に行き詰まりを感じた時にみたい作品だった。

(文/杉本結)

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『零落』
3月17日(金)よりテアトル新宿ほか全国ロードショー

監督:竹中直人
原作:浅野いにお「零落」(小学館 ビッグスペリオールコミックス刊)
出演:斎藤工、趣里、MEGUMI、山下リオ、土佐和成、永積崇、信江勇、宮﨑香蓮、玉城ティナ / 安達祐実

2022/日本映画/128分
公式サイト:https://happinet-phantom.com/reiraku/
©2023浅野いにお・小学館/「零落」製作委員会

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