もやもやレビュー

唯一無二の存在感、松浦りょう『赦し』

『赦し』 3月18日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開

本作、今年見た邦画で一番心が揺さぶられた。

娘を殺された元夫婦(尚玄、MEGUMI)と、犯行時に未成年だった加害者の女性(松浦りょう)。癒やしようのない苦しみに囚われた3人の葛藤を見すえ、魂の救済、赦しという深遠なテーマに真っ向から挑んだ問題作。

題名となっている『赦し(ゆるし)』という漢字を目にする機会は少ないように感じる。普段の生活の中で使用するのは「許」という漢字のほうだろう。「認める」という意味があり、「〜しても良い」と許可を出したり、認める場合に使用されるのが「許す」だ。こちらの「赦す」は、「罪を犯した相手を罰しない」という意味で使用される。罪を責めない・咎めないという意味以外で「赦す」を使用することはない。
使用頻度の低い漢字ではあるが、だからこそ本作の題名としては鑑賞後かなりしっくりとくる。

sub1.jpg

娘を殺された親である2人が共通の事件を経験していても同じ気持ちではないところにヒリヒリとさせられる。
そして、感情論は法律の中にはないという被害者家族にとってシビアな現実がのしかかり、裁判が長期化すればするほど何度も当時を思い出さなくてはいけないことに苦しむ姿は痛々しくもあった。罰することの重さをヒシヒシと感じた。

sub2.jpg

事件の真相が明らかとなっていくことで犯人側の心理も考えさせられる展開がとても上手く出来ていた。加害者の女性役を演じた松浦りょうの存在感は『渇き。』で小松菜奈の演技を初めてみた時と似ていて、唯一無二だと思った。まだまだこれから光り輝く原石のような女優さんをぜひスクリーンでみてほしい。

(文/杉本結)

***

sub3.jpg

『赦し』
3月18日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開

監督・編集:アンシュル・チョウハン
出演:尚玄、MEGUMI、松井りょう、生津徹、藤森慎吾、真矢ミキ ほか
配給:彩プロ

2022/日本映画/98分
公式サイト:https://yurushi-movie.com
©2022 December Production Committee. All rights reserved.

« 前の記事「もやもやレビュー」記事一覧次の記事 »

BOOK STANDプレミアム