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『流浪の月』李相日監督インタビュー

『流浪の月』(5/13公開)李相日監督

2020年本屋大賞を受賞した凪良ゆうの傑作小説「流浪の月」が映画化されることになった。主人公は女児誘拐監禁事件の「被害女児」とされた更紗(広瀬すず)。15年の月日がたち、偶然にも「元誘拐犯」とされた文(松坂桃李)の経営する店に更紗は足を踏み入れる。再会した男女に向けられる偏見や好奇の目のなかで、二人だけの関係を懸命に捜し出そうとする姿が神聖かつ比類なきものとして描かれている。

恋愛や友情、家族愛...そんな既存の言葉では表現できないふたりの稀有な結びつきをスクリーンに描き出したのは、『フラガール』で第30回日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞し、『悪人』『怒り』など人間の心の中に眠る深い闇の部分をのぞき込むような作品作りをしてきた李相日監督。映像化へのこだわりや原作ファンへのコメントを李監督に伺ってきました。

---- 原作を読まれてのご感想をお聞かせください。

現代的な空気感が色濃く反映されていて非常にリアルに感じました。同時に、更紗と文の関係は純度が高く、シビアでリアルな世界とはある種、隔絶されているようにも感じられました。リアルな現代社会と寓話性という両極のものが1つの世界観の中に在る小説の雰囲気を、魅力的に感じました。

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---- 原作を読まれた時に、映像化するイメージは湧きましたか?

現代的な背景の中で、様々な立場の人たちが当事者とは関係のないところで自分の常識を世間の声や世の中の意見として配信していく姿を想像しました。視覚化が難しい部分です。
他の映画やドラマで画面上にネットの文字を表示したりしていますが、そういった表現はこの作品にはそぐわないと考えました。"世間の声"という抽象的なものを、主要な登場人物に背負ってもらいたかったのです。
特に、亮くん(横浜流星)や谷さん(多部未華子)には、主人公たちにとって一番身近な存在だけれど、同時に世の中の声を代弁する役割も必要でした。自分の理解を超えてしまった時、心の底では人はそう簡単には異質なものを受け入れられないですから。

---- 原作と違う脚色に悩んだ場面はありますか?

最後の文の告白シーンです。
原作では文の幼少期から現在に至るまでの苦悩が、彼自身の語り口で語られます。映画では、彼が人知れず抱えてきた苦悩の根源を、観客や更紗が目の当たりにする必要があると思いました。
文の全てを賭けた告白を、更紗が全力で受け止めることによって、彼女自身の中に母性が生まれる。映画の到達点をそこに見据えていました。

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---- 出演者への役作りで監督が何かリクエストしたことありますか?

どの作品でもいつも同じです。その人に見えるようになって欲しい!


---- 李監督は撮影が始まる前の事前準備の時間をとても大切にされていると聞きますが準備段階での面白いエピソード等あったら教えてください。

亮と更紗はもう2年近く同棲しているカップルという設定です。
最初に2人が登場する場面は、亮が玄関に帰ってくる日常のひとコマです。2人が映像に映った時に観客はどのような関係性を感じ取れるのか。それぞれが内面に抱えている感情を埋めていくことが必要だと伝えました。
2人とも初対面だったのでリハーサル以外にもコミニケーションを取る時間を増やして撮影期間中は「おはよう」「おやすみ」と声をかけあうような2人の関係性が途切れないようにしてもらいました。

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---- 劇中のカーテンの演出がとても印象的でした。

何か映像の中で揺らいでいるものがある。俳優の存在と重なってくる演技だけではなくてその奥に何か揺らぎがある。直接的では無いけれど、常に後に何かざわついているようなそういった緊張感みたいなものを表現したかったんです。

---- 映画化にあたり、原作者の凪良ゆうさんとはどのようなお話をされましたか?

凪良さんには、最初に脚本ができた段階でお見せしました。
凪良さんは「映画はただ原作をなぞるだけのものになってほしいわけではなく、李監督の映画として作ってもらいたい』ということを、一貫しておっしゃっていました。原作からなくなったシーンや追加されたものについての感想などいろいろお話ししてくださいました。

---- 完成された作品について、凪良さんの反応はいかがでしたか?
なかなか言葉にはならないようでしたが、とても好意的に受け止めて頂いたのはすごく伝わってきました。

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---- 監督から原作ファンへメッセージをお願いします。
原作ファンの方がどのように感じるかは想像がつかないのですが、原作に忠実に自分がいいと思った部分を抽出して映画にしています。忠実、というのはただなぞるのではなく、自分なりに真に大事な核を捕まえ解体しながら、映像として再構築していく作業です。
なので、根幹の部分は映画も小説もつながっていると確信しています。表現方法が違うところがあるだけで、違うところも含めて映画の世界を楽しんでほしいです。

監督は一貫して映画を一つの作品として映像から伝わる空気感で心情を観客によみとってもらえる作品作りをしている職人のような人だという印象をもちました。
クールなインタビューのやり取りの中に人間の持っている様々な複雑な感情を撮影する中で俳優と魂をぶつけ合い捜しているように感じました。
監督がひとつの作品にかける熱量を感じられるインタビューでした。貴著な機会をありがとうございました。

(取材・文/杉本 結)

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『流浪(るろう)の月』
5月13日(金)より全国ロードショー

監督・脚本:李相日
原作:凪良ゆう「流浪の月」(東京創元社刊)
出演:広瀬すず、松坂桃李、横浜流星、多部未華子、趣里、内田也哉子、柄本明
配給:ギャガ

2022/日本映画/150分
公式サイト:https://gaga.ne.jp/rurounotsuki/
©2022「流浪の月」製作委員会

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