日韓問題を考える『アジアの天使』
『アジアの天使』 7月2日(金)よりテアトル新宿ほか全国公開中
デリケートなテーマを描くことがとても上手い監督の1人である石井裕也監督のらしさが輝く最新作。
今回は日韓問題に真正面から向き合っている。
妻に先立たれ、男手ひとつで一人息子の学を育てている青木剛(池松壮亮)は、疎遠だった兄(オダギリジョー)を頼りソウルへ移住する。韓国で仕事があると聞かされていたものの、実際には兄は経済的に困窮しており、剛は怪しい化粧品の輸入販売を手伝うことになってしまう。一方、ソウルでタレント歌手として活動するチェ・ソル(チェ・ヒソ)は、所属事務所の社長と関係を持ちながら自身をとりまく環境や兄妹との関係に悩みを抱えていた。そんな縁もゆかりもなかった2組の家族が偶然にも出会い不思議な関係へとなっていく。
日韓の2組の家族の交流を描いた本作の中で、日本人と韓国人がお互いに歴史的背景から相容れない関係にあることについて言及しているシーンがある。
戦争を題材にした映画の中で表現されることがあっても現在を生きる登場人物が言葉にだしてそのことを語るという作品はなかなかみたことはないのではないだろうか。
劇中で剛は韓国語は話せないず、ほんの少しだけの「片言の英語」でソルと会話する。言葉も文化も違うけれど、同じ人間として相手のことを考え理解出来る悩みがあることに作品の温かさを感じる。
5月には石井裕也監督の『茜色に焼かれる』も公開されている。こちらはコロナ禍の世の中が描かれている。最も今の私たちにとってホットな話題が映像化されていると言える。
登場人物はマスク生活をしていて、コロナで経営していたカフェが潰れて、昼間はパートをしながら夜の世界でも奮闘するシングルマザーを尾野真千子が熱演している。
作品に共通しているのは知っているはずなのに日々の生活の中で深く追求している人が少ないテーマだということだ。日韓問題についての根は深い。だけどK-POPブームや韓国コスメ、ファッションなど若者を中心にカルチャー的な部分の韓国ファンは多いのも事実。作品でも言及されている通り日本人と韓国人が結婚となった時に周りの反応はどうだろうか?といったリアルな問題を家族の視点から語るところが派手なシーンではないけれど心に残るみどころとなる。さらに、本作は予想外の笑えるラストを楽しみにして欲しい。
監督の『おかしの家』をみたことがある人はあるキャラクターが再登場しさらに面白いはず! 言葉や論理では伝わらないものがあるという表現の方法が面白い作品だ。
(文/杉本結)
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『アジアの天使』
7月2日(金)よりテアトル新宿ほか全国公開中
脚本・監督:石井裕也
出演:池松壮亮、チェ・ヒソ、オダギリジョー、キム・ミンジェ、キム・イェウン、佐藤凌 ほか
配給:クロックワークス
2021/日本映画/128分
公式サイト:https://asia-tenshi.jp
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