もやもやレビュー

ラザロは私たちの身近にいるのかもしれない『幸福なラザロ』

『幸福なラザロ』 4月19日(金)よりBunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー

2018年のカンヌ国際映画祭で『万引き家族』がパルムドールを受賞したのは記憶に新しい。その時に同じコンペティション部門で話題をさらったのが今回紹介する『幸福なラザロ』である。この作品カンヌ国際映画祭では脚本賞を受賞している。
監督は『夏をゆく人々』のアリーチェ・ロルヴァケルという女性監督である。

題名にもなっている「ラザロ」。どのような人物なのかあまり知識がなく鑑賞し鑑賞後に調べた。鑑賞前に「ラザロ」という人物の背景を知っているとまた作品の見え方が変わってくるのかもしれない。
ここにでてくる「ラザロ」とは、ヨハネ福音書に登場する人物の一人である。イエス・キリストが愛した3姉弟の一人とされている。ラザロは病気で一度死ぬが死後4日後に現われたイエスの「ラザロ、出てきなさい」という言葉により蘇生する聖人といわれている。
この出来事を、レンブラント、ゴッホなど多くの画家が「ラザロの復活」として描いている。

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この作品のストーリーは実際に起きた詐欺事件から着想された寓話的ミステリー。イタリアの小さな村で侯爵夫人の元で働いていた村人達はとても質素な生活をしていた。しかし、実際は小作人制度は何年も前に廃止されていたことを、一つの事件から村人達は知ることになる。

この作品の主人公は題名にもなるほどなのでラザロなのかと思うが、ラザロという青年自体が目立った行動をとることはなく、たくさんいる村人の中にいる一人にすぎない。だけど、スクリーンからみつめるラザロの瞳のパワーはなにかを見透かしたような力をもっている。多くを語るわけでもないのにぽつりとそこにいるラザロという青年。
村人の中でもラザロはあちこちで呼ばれては雑用を任され、それに嫌な顔ひとつしないでひとつひとつこなしていく。普通、面倒くさそうにしたりなんで私ばかりと思うであろう場面でも、ラザロはそんな素振りを1ミリもみせることはない。
多くの映画の主人公は悪と戦ったり、格好いい台詞を言ったりなにか印象に残る存在となる人物である。だけどこの映画の主人公であるはずのラザロは、それは静かで穏やかにただそこにたっているような存在であった。

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この作品に出逢って人間のもつ可能性について考えた。自分に出来ることは限りがあるとあきらめるのか?静かに継続することで見えてくるなにかがあるのではないのか?
また、誰かの為になにかをすることで生まれる可能性。一人では出来ないことも、助け合うことで出来る可能性は広がるのではないだろうか?
「してあげる」という意識もなく他人の為になにかする行為から生まれる感情こそ「幸福」という気持ちなのかも知れない。
電子機器や雑音が多い時代だからこそラザロから学ぶことは多い。人間の可能性を信じ希薄になった人間同士の関係を修復する第一歩にあなたなら何をしますか?
私はまずは相手の目をみて会話することから初めてみようと思う。

(文/杉本結)

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『幸福なラザロ』
4月19日(金)よりBunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー

監督:アリーチェ・ロルヴァケル
出演:アドリアーノ・タルディオーロ、アルバ・ロルバケル、ルカ・チコバーニ、アニェーゼ・グラツィアーニ、セルジ・ロペス ほか
配給:キノフィルムズ

原題:Lazzaro felice
2018/イタリア・スイス・フランス・ドイツ合作/127分
公式サイト:http://lazzaro.jp
(c)2018 tempesta srl・Amka Films Productions・Ad Vitam Production・KNM・Pola Pandora RSI・Radiotelevisione svizzera・Arte France Cinema・ZDF/ARTE

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